私の心情(289)―取り崩しインタビューGさん:Hard Rock Cafeフリーク

リースバックで5000万円捻出

60歳のGさん、「今住んでいる家はリースバックした結果、賃貸なんだ」と何やら最初から興味深いインタビューになりそうな予感でした。

Gさんは独身で子どももいません。10年以上も前にご両親ともに亡くなっていて、弟さんがいらっしゃいますが、完全な単身世帯です。今住んでいる都内のマンションは3LDKで、2004年に6000万円ほどで購入されましたが、前から興味のあったリースバックで賃貸に変え、ゆくゆくは地方に移住しようと考えていたそうです。

タイミングよく、2023年にリースバックし、5000万円ほどの現金を得て、現在は毎月23万円の賃貸料を支払っています。年間276万円と負担が大きいように思えますが、管理費月額5万円と固定資産税年間20万円を差し引くと負担は200万円を下回ります。

58歳でFIRE

現在仕事は無職で、完全に資産を取り崩す生活を送っています。新入社員の時から外資系企業を渡り歩いて、2020年に当時の会社が合併吸収されリストラに。割増の退職金は受け取ったものの、コロナ禍でもあり、後2年働くことにしたそうです。それでも58歳の時に完全リタイアをしています。ちょっと遅めのFIREといったところですが、本人は「FIREではなく自由人だ」と主張しています。

そのためある程度金額が読めている現在の収入は、個人年金の受け取りで年間200万円、それに配当収入で100万円、合計300万円です。

ミニマリストの生活だが、収支は赤字に

生活費はかなり少なくて済ませているようです。「料理は趣味です」とおっしゃって、ほとんど自炊をされています。午前中に音楽を聴きながら料理を作って、午後は読書を楽しむことで、ほとんど1日を楽しく過ごせているとのこと。そのため毎月の生活費は本代が嵩むものの10‐11万円程度で、年間で120万円強といったところです。

それ以外に、現状では家賃の支払いが月額23万円ありますから、家賃と生活費と合わせて年間400万円程度が支出額となります。収入が300万円で、支出が400万円ですから、基礎的な収支だけで100万円の不足です。

地方移住で収支を変える

この差額の解消方法として、現在検討しているのが地方移住です。「地方に行けば、家賃は大幅に下がるので年間100万円くらいは解消すると思う」とのこと。具体的には長野か、山梨を挙げていましたが、近々決めるような感じを受けました。

私は、Gさんが移住した後に家を買うのか賃貸を続けるのかに大いに興味を持ちましたので、その点を伺ったところ「賃貸にしようと思っている」とのことでした。しかし「高齢になると賃貸の契約更新がむずかしくなるので、家を買うのは考えないのですか」と振ってみましたが、「その時は秋田にある親の土地に家でも建てて住むことにしようかな」といたってのんびりとした返答でした。

秋田に保有する土地の時価は8‐900万円ですが、ご両親が亡くなった後も相続人である末っ子の弟と連絡が取れず、売却できないままになっています。現在はGさんがすべて管理しているものの、売却するには手続きが面倒なので、「なんなら家を建てて住んだ方がましかもしれない」とも思ってらっしゃるようです。

Hard Rock Caféフリークの本領発揮

当面は年間100万円の収入不足が続く見込みのうえ、さらにあと200‐250万円ほどの遊興費が上乗せされます。

趣味の支出です。Gさんの趣味は海外旅行。特に世界中のHard Rock Caféを回ってTシャツを買い集めることです。20代前半から海外旅行に目覚め、現役時代も年間に4‐5回は海外に旅行に行って、Tシャツを買い集め始めました。外資系企業に勤めていた強みで有給休暇がかなり自由に取得できました。

これまで80か国ほどに旅行し、訪ねた店舗は閉店した店を含めて257店、そのうち現存するHard Rock Caféは150店舗ほどあり、それをベースに考えると130店ほどに行っているとこと。なんと、全世界の9割がたを制覇したことになります。ちなみに、最南端は南米のスクワイヤ、北端はノルウェーのトロムソのお店に行ったことがあり、ブラジルでは強盗に襲われたこともあるとのこと。今年は6月に、アメリカに新しくできたシカゴとヴァージニア州のお店に行く計画ができています。

半分バックパッカーのような旅行ですから1回あたりのコストはそれほど高くありませんが、最近は年10回くらい行っているため、年間で200‐250万円の出費を見込んでいます。

ところで、「絶対売らないけど、ここで集めたTシャツが一番高い資産になるかも」とのこと。

一喜一憂こそ好きだ

さて資産ですが、2022年の退職時点で3000万円くらいの金融資産があり、これに自宅のリースバックで得た5000万円を加え、運用した結果、現在金融資産は9000万円程度に拡大しています。

内訳は預金が3000万円、個別株が5500万円くらいでそのうち米株と日本株が半々くらい、そして5-600万円の投資信託があります。このほかに、個人年金が3種類(60-70歳受け取りが2本と60‐75歳受け取りが1本)ありますが、これは資産というよりも当面の生活のキャッシュフローを作り出してくれる契約だと考えています。

「米国株ではニッチな分野の株が好きで、為替の変動とともに一喜一憂している」とのこと。ただ、「その一喜一憂が楽しいんだ。好きなんだ。それがないと続けられない」とも力説されています。ちなみに、1ドル=170円になれば、米国株は売ろうと思うとのことですが、果たしてどうでしょうか。

これに対して、日本株は配当株を保有しています。米国株とはかなり嗜好が異なっているようですが、この株の配当収入が前述の年間100万円の原資になっています。なお、それほどの金額ではなかったものの昨年の急落や、今年の急落では追加で購入したとのこと。

投資信託はNISA口座を使って保有していますが、「今さら積立投資をするつもりはない」ので、「成長投資枠だけ使って、年初に満額の投資を行っている」としています。

有価証券は最後まで残す

保有する金融資産は、預金から取り崩して、次は再投資に回している配当を生活費に回し、その次は投資信託、そして最後が株の順で売却していくつもりとのこと。「取り崩しのルールというほどのものではないない」が、有価証券をできるだけ残すというのが、ご自分の嗜好にあっているようです。

なお、売買で儲けが出たときは損の出ている株をあわせて売却して、損益通算のメリットしっかり使うようにしているとも話してくれました。

死ぬまでに使い切りたい

インタビューの途中で、Gさんは「資産は死ぬまでに使い切りたい」とおっしゃいました。できるだけ海外旅行は続けたいし、そのために資産を使うことに躊躇しないとのこと。

「今後、結婚はしないのですか」と水を向けたところ、「1人旅できる人、リスクを取ることを厭わない人だったら、結婚してもいいとは思うけど」との答え。一緒に、旅行に行くのが楽しくなるような伴侶であれば、それはもう一段楽しさが増すようにも思えます。

インタビューを終えて

ひとり身の身軽さと外資系で培った自由さがGさんの信条のようです。インタビューを通じて、そのお金との向き合い方にちょっと憧れをもって聞いていたように思います。趣味に対するフリークといえる執着度合い、一喜一憂する相場が楽しいという心持ちなど、自分には到底及ばない生活とお金に対する向き合い方がユニークです。

そのスタイルが如実に出ていたのはリースバックの活用だったのではないかと思います。その効用や課題は良く議論してきましたが、実際にそれを使って資産活用を行っている人の話を始めて聞くことができましたし、その流れの先に地方移住を位置付けていることなど、もっと話を聞きたいと思えるインタビューでした。

取り崩しの順序は自身の嗜好を強く反映していますが、これを進めると有価証券比率が過度に高まる懸念も出てきます。将来、徐々にリスクが取れなくなることも念頭に置いて、どこかのタイミングでその見直しも必要になると思いました。