私の心情(103)―資産活用アドバイス36-「定率引き出し」の課題をボラテリティの抑制で克服

「定額引き出し」vs「定率引き出し」

これまで、退職後のお金との向き合い方で「定額引き出し」と「定率引き出し」を対極的に扱ってきました。これは金融資産の大半が現預金である現状で定着している「定額引き出し」を、資産を運用するときにも無意識に当てはめてしまうと思わぬ元本を毀損するリスク、いわゆる「収益率配列のリスク」がることを理解して欲しいとの思いがありました。

「定率」以外にも「率」による引き出しはいろいろある

そのために、資産活用の代表的なアプローチとして、資産全体を3%で運用して、その資産の4%を取り崩すというコンセプトを紹介し、「3%運用、4%引き出し」といった簡便な言葉で表すことが多くなっています。もちろんこれは「標準型」のようなものだと考えていて、引き出し率と運用収益の組み合わせは多数ありますし、引き出し率だけでも年齢に合わせて少しずつ引き上げる方法、余命のデータを使って計算する方法など、いろいろあるでしょう。

「率」による引き出しでは安心した生活ができない

ただ、これら「率」で計算して引き出す方法の課題は、毎年の引出額が安定しないことです。資産を運用するなかでは定額引き出しの持つリスクは理解できるものの、一方で高齢になってからの生活そのものは金融市場の変動ほど柔軟に変えられるものではありません。だからこそ、「収益率配列のリスク」を軽減しながらも、いかに引出額を安定させるかに知恵を絞る必要があります。

そこで、より具体的な対策を想定するためのスタートラインとして、2つの側面から「引出額の安定化策」を考えてみたいと思います。1つは、保有金融資産の価格変動リスク、いわゆるボラテリティを抑制する方法で、もうひとつは引出額が変動しても、その時にそれを抑制する他の資産、バッファー資産を持つ方法です。今回はボラテリティを抑制する方法を整理しました。

「定率引き出し」額を安定させる方法=ボラテリティを下げる

まずは、引出額の変動させる原因、すなわちリスク=ボラテリティを抑制することです。そもそも資産運用をすれば価格変動リスクは避けられません。「率」による引き出しは、その価格変動リスクを資産残高ではなく、引出額で吸収しようという考え方ですから、引出額の変動を抑制するには、価格の変動リスクを抑制すれば良いということになります。

最も一般的には、価格変動リスクを下げるための方策は想定する収益率を下げることです。想定する収益率を下げれば、それに伴う価格変動リスクも抑制できます。それを突きつめていけば、究極的な手段は現預金で保有することになります。これであれば引出額の安定は保たれますが、長生きリスクを回避することはできません。自分にとっての、資産運用をすることのリスクとリターンの最適解を、必要な引出額と引出年数、そして保有する資産を条件に求めるということになります。決して、簡単なことではありませんが、基本はここにあります。

V字型、U字型のリスク性資産比率

ただ、退職生活期間中のすべてを同じ運用で行うという前提を外せば、もう少し違ったアプローチも可能になります。その一つが、価格変動リスクの影響が一番大きい時期だけその比率を下げるという方法です。

Retirement Income Guidebook(2021年、Wade Prau著)によると、「株式比率50%のポートフォリオにおいて、各年の収益率が資産形成または持続的な引き出し率へどれだけの影響度を持つかを100万回のモンテカルロ・シミュレーションで検証した結果、退職1年目が最も大きな影響を持っていたことがわかった。収益率の影響は年々減少していくことがわかり、最初の5‐10年で退職後の資産の持続可能な引き出し額が明示的に高いか低いかが決まってしまうことが窺える」としています。

一般に退職に向けてリスク性資産の比率を引き下げるようにしているのであれば、退職後のしばらくはそのまま低い比率で運用を続けるという方法です。例えば65歳で退職した場合には、70₋75歳くらいまでは株式比率を引き下げ、その後は高めるという設定を行います。日本の場合には、確定拠出年金等は退職後に一括して引き出すときは現金化されますから、他の資産と総合的に考え合わせると、自動的にリスク性資産の比率が下がることになると思われます。いずれにしても、現役時代の株式比率を一定年齢から徐々に引き下げて、それを退職後も持続させ、後半になったら引き上げていくという、V字型またはU字型のリスク性資産比率を想定することになります。

ボラテリティを抑制する方法は、退職後の資産をすべて運用していることが前提(もちろん分散の結果とし預金を保有することはありますが)ですが、もう一つの安定化策は運用資産以外に「バッファー資産を持つこと」もあります。こちらは次回にまとめます。