私の心情(129)―地方都市移住42-退職後は1人でできることをやろう(金沢)

終の棲家は金沢

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64歳、独身、7年前から金沢市のマンションに住んでいるSさん。東京生まれで、大学は北海道に。その後、就職した建築資材関連の会社では、東京、滋賀、高知、石川、富山など多くの転勤を経て、今は以前から住みたかった金沢に移り住んで、ここを終の棲家と考えています。

石川県金沢市には47歳から3年9か月、仕事で赴任していました。そこから富山県高岡市に転勤する際に、地元の方に「金沢にいつか住みたいのでいい物件があったら探して欲しい」と言い残していたのですが・・・・。結局、自分で探すことになりましたが、気に入ったマンションが見つかり、2015年に3000万円ほどで購入しました。

オールブラックスが大好き

そこから1年ほど高岡市まで通勤していましたが、2016年に58歳で早期退職し、そこからは金沢で好きなことをやって生活しています。コロナ禍の前には、「当時は航空会社の最上級メンバークラスになることが目標でした」とおっしゃるだけあって、年間100日くらい海外旅行に行っていたようです。

オンラインで行ったインタビューでは、オールブラックスのタペストリーが背景にみえていて、大ファンだそうです。「2020年3月2日から5日までニュージーランドに旅行していたのですが、成田空港に着いたらニュージーランドがコロナ禍でロックダウンになっていることを知り、間一髪で出国できたのだと驚いた」とのこと。ただ、これ以降、まったく海外旅行に行くことができていないのは「残念でたまらない」といいます。

驚きの独身の理由

Sさんは、アンケート調査で独身と回答。不躾だとは思いながらも、その理由を聞くと「高知にいたころからアトピー性皮膚炎がひどくなって」と体調の変化を明かしてくれました。40代前半から既に20年以上、アトピー性皮膚炎に悩まされてきたとのこと。仕事中もかゆくてトイレに駆け込んで塗り薬を塗ることは普通で、寝ている間に無意識に皮膚を掻き、細菌に感染して「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」を起こすこともあったとのこと。蜂窩織炎で、これまでに6回も入院しています。

しかし最近新しい治療薬が開発され、一気に皮膚炎が収まってきました。アトピー性皮膚炎の新薬「デュピクセント」がそれ。2週間に1回の自己注射で「本当に楽になった」とのことで、この先は3週間に1回に減らせそうだということです。ちなみに、この薬1本2万円で3か月分の処方を受けると費用は12万円。なかなかの負担額ですが、高額療養費として「限度額適用認定証」を受けているので、支払いは5万7600円で済むようですが、それでも負担としては決して軽くありません。

資産を増やすより使うことに専念したい

7年前に買ったマンションはかなり値上がりしているのではないかとみています。というのも、やはり金沢は新幹線が開通したことで「本当に便利になった」からです。コロナ禍が少し収まって「蔓延防止等重点措置」が解除される直前だったこと、東北での地震で旅行需要が北陸に向いたことなどから、3月の3連休は観光客がたくさん押し寄せていたようです。これも新幹線の力です。

そのマンションの他に、地元のゴルフコース3つのメンバーになっています。また金融資産は5000万円以上あるとのこと。現役時代の貯蓄に加えて、退職金が2000万円弱あったこと、また父親からの生前贈与もあったこと、などが資産の源泉になっています。さらに東京で1人暮らしの94歳の父親もマンションを持っているほか、Sさんが受取人になっている生命保険もあるようです。

一方で、金沢は物価が安く、年間の生活費は200万円以下で済んでいるようですから、「現在の資産で自分の退職後の生活は十分にカバーできる」とみています。資産運用の誘いもあるものの、今のところ運用して増やすより「どうやって使うかに専念したい」と断っているとのこと。ちょっと羨ましい感じですね。

1人でできることをやろう

ところで退職後の生活は、もともと「1人でできることをやろう」と決めていたようです。早期退職をしたこともあり会社の仲間と一緒に遊ぶことはなく、今ゴルフに行く仲間は近所の飲み屋で一緒になった人たち。そもそも年間100日にも及ぶ海外旅行は1人で行っていたし、趣味と健康増進のために始めたサイクリングも1人できる。また金沢のゴルフ場は、1人で回ることができるところが気に入ってメンバーになった。

敢えてネットワークを作ろうというわけではなく、1人で楽しめることを探すというのも退職後の生活の一つの方法なのかもしれません。

取材を終えて

「60代6000人の声」のアンケート調査で、「自分の住んでいる都市を他の人の退職後の生活地として推奨するか」の設問にSさんは10点満点の評価をしていました。0点から10点までの11段階で評価をして9点、10点をつけた人の構成比から、6点以下をつけた人の構成比を引く、いわゆるNPS®の考え方で推奨度を計算すると、金沢市は-30.9ポイントと第3位と高いランクでした。

その理由がよくわかるような気がするインタビューとなりました。確かに資産は十分多いと思える水準でしたが、それ以上に生活費の安さ、新幹線の開通がもたらす交通の便の良さが際立つように思います。Sさんの「心持ちの軽さ」はそこにあるようにも感じました。

最後に、Sさん曰く、「最近、それまで住んでいた東京の池尻から金沢に移住してきた友人もいるんです」とのこと。金沢注目かも。