私の心情(131)―地方都市移住44-淡々と進めてきた結果が1億円以上の資産に(静岡)

2022年2月に行った「60代6000人の声」アンケートで、静岡在住のOさんは、「生活全般」、「健康状態」、「仕事・やりがい」、「人間関係」、「資産水準」の5つすべてに「満足できる」と回答され、本当に充実した生活を送っています。

淡々と資産1億円以上を積み上げる

Oさんは67歳。60歳で定年を迎えたときにそれまで単身赴任していた福岡を離れ、実家のある静岡に戻ることにしました。

今は、10年以上前に他界した親が残してくれた静岡市の土地に家を建てて住んでいます。写真は愛犬とちょっと遠出の散歩に出かけるところから見た素晴らしい富士山の風景です。

現在Oさんには、金融資産が8000万円以上あり、不動産を含めると1億円を超えています。どうやってそれだけの資産を作り上げてきたのかと尋ねると、「淡々と生活費のなかから貯蓄をしてきただけ」だといいます。

確かに「年収はピーク時には1300万円くらいありました」が、単身赴任時代から給与振込口座の通帳とカードは妻が持っていて、「給与から使う自分の小遣いは10万円だけ」にしていました。奥様も「確か年収で200⁻300万円くらいで働いていた」ので、2人の収入から家族の生活費や子どもの教育費に充当し、そこから残った分を貯蓄してきました。「出張手当てなどは自分で使えたのでそれはうれしかった」と、がんばった分のご褒美があるようにもしていたそうです。また、当時は資産運用もしていません。

 ストレスの大きい仕事は60歳で辞める

Oさんは、建設コンサルタント会社に就職して下水道の設計に携わり、東京での勤務の後、静岡、名古屋、福岡、仙台などに転勤を重ねます。以前は3K(きつい・汚い・危険)とよく言われた業種で、そのうえ設計の仕事そのものは納期が厳しく、基本ひとりでやることが多いことから、ストレスが重なることが多かったといいます。もちろん年収は高かったし、東北震災の後の復興の仕事に携われたことなどやりがいもありました。しかし、40代の前半には突発性難聴を発症するなど苦しんだとのことです。

その会社は定年前の58歳で退職し、従来から仕事で協力することのあった資材メーカーに誘われ、福岡に転勤します。そこではコンサルタント的な提案から商品の販売に結び付ける新しい営業を始めるために働きましたが、奥様の病気などもあって60歳になった時点でそこも退職します。そして静岡に戻ることにしました。

今も資産は増えている

静岡に戻ってきてからの生活費は2割ほど減っているといいます。遊ぶお金はあまり必要ではありませんし、食事を贅沢したいと思うこともないからです。

一方で、収入はしっかりと担保されています。実はこれまでの仕事柄、1級建築士、技術士などの資格を持っているので、それを活かして今も沖縄の建設会社のコンサルタントで働いています。月1回ほどの沖縄出張があり、その交通費・宿泊代込みで年収は420万円ほどあるそうです。さらに年金も年200万円以上受け取っているので、十分に生活費を賄って余りある状況のようです。通帳の残高は今も増え続けているのが実情で、「減ることがあるのは学資保険などの孫への支出があるときだけ」とのこと。

今になって、「年金は繰り下げ受給しておけばよかったか」とちょっと気にされていましたが、まだ年金を受給していない奥様(61歳)は「繰下げ受給をさせようか」と思っています。

賃貸収入もある

勤労収入と年金収入の他に賃貸収入も入ってきます。60歳で実家に戻ったOさんですが、実は2000年に、45歳で静岡赴任中に2600万円のマンションを購入しています。当時は、そこに奥様やお子さん2人が生活し、Oさん自身は単身赴任の生活を続けていたわけです。

その後、親の遺産で受け取った土地に、2015年に、解体費を込みで3200万円をかけて家を建てます。現在Oさん夫婦はその自宅に住んでいますが、このマンションは売却せず、一時期は次男一家が住んでいました。その次男も今は横浜に移っったことから、2021年1月にやっと賃貸に出すことができ、現在は賃料10万円で、諸経費を差し引いて毎月7万円強の収入が入ってきます。

2014年からNISA口座を開設して株式投資を少し始めました。といっても近くのスーパーで使える優待券などが受け取れる株券を中心に、ほんの少し投資をしている程度。これも楽しみの一つになればと。

これからの10年

「今の生活はストレスがなくて本当にいい」ので、この生活が70歳過ぎくらいまで続けられればうれしいとのこと。その先は、仕事ではなくて近所のコミュニティに貢献できないかと願っているようです。静岡市内といっても合併して静岡市に編入された街なので、高齢化が進んでいてお互いの生活を支え合えるようなネットワークができないかと考えています。

取材を終えて

Oさんの場合は、厳密にいえば退職後の地方都市移住というのとはちょっと違っていますが、生活費を抑制するために生活の場所を変えたという点では、同じコンセプトではないでしょうか。

これまで私は「退職後の生活費=勤労収入+年金収入+資産収入」という考え方で退職後のお金との向き合い方をお話してきました。Oさんの場合には、静岡市に戻ったことで生活費は2割減になり、一方で資格を支えにまだ勤労収入が確保され、年金の収入もしっかりあります。しかも奥様の分はこれから受給が始まります。さらに不動産からの収入もあります。この等式をすべて満たしている点で、理想形に近いのではないかと思います。