私の心情(50)―資産活用アドバイス20-「IFAとは何者か」出版記念セミナーでのQ&A—その3

2020年も残すところあとわずか。今年1年本当にお世話になりました。皆さまのおかげで厳しい環境のなか、フィンウェル研究所も何とか活動を続けることができました。ありがとうございました。寒々とした枯れ木の向こうにある温かい日差しを感じていただこうと写真を撮ってきました。2021年は皆さまにとって、そしてフィンウェル研究所にとっても良い年になりますように、心より念じております。

さて、年内最後のグログです。2020年12月1日に行った「IFAとは何者か アドバイザーとプラットフォーマーのすべて」の出版記念セミナーでいただいたご質問に対する私見の第3回目です。これまでの2回は手数料に関する質問でしたが、第3回はIFAのビジネスに関するものを集めました。

なお、このQ&Aだけでは一部分しか議論していませんので、誤解を招く可能性があります。「IFAとは何者か」の本と合わせてお読みいただけますようお願いします。

Q: 日本の金融仲介業者を、IFAと呼ぶことに疑問がある。アドバイスを収益源とする英国のIFAや米国のRIAを連想させるIFAではなく、日本の場合は正確に金融仲介業者と表記した方がよくないか?

A: ご指摘の通りです。日本の金融仲介業者は、委託証券会社と仲介業者の間に契約関係があり、法制上の収益源はあくまで委託証券会社からのコミッションとなっています。そうした点もあって、本のタイトルが「IFAとは何者か」とつけている部分でもあります。英国を例にとれば、日本でも、①市場にある多くの金融商品の中から選んで、②フィーベースでアドバイスをする、業者であればIFAと呼んでもいいかと思います。また、プランニングだけではなく、アドバイスでなければ意味がないと思いますので、ソリューションの提供まで含めていることも必要になるでしょう。もちろん、「仲介」がビジネスの形態だとすると、その形態のなかでも手数料バイアスがかからない制度にすれば英国のIFAモデルが可能になるようにも思います。まだ吟味が足りていない部分は十分にありますが。

Q: 今後IFAがスキルを多様化させても、顧客側に投資に関する意識が希薄で、投資そのものが敷居の高いものならば、アドバイス市場の進展は望めないのではないか?

A: 2つの流れを考えています。顧客側にもアドバイスを重視する機運は出てきているのではないかという点と、アドバイザー側がどのセグメントをターゲットに動き出すかです。前者では、積立投資への認知度の上昇やDC、NISAなどの非課税制度の拡充・導入で若年層を中心に資産形成の意識が高まっており、以前よりはアドバイスの重要性が認知されていると考えています。またサブスクという契約・料金形態が増えてきていることも、新しい環境のようにも感じます。個人的には携帯電話の料金体系などはキャリアを超えて比較してくれるアドバイザーがいればフィーを支払ってもいいと思うようになっています。

後者では、差し当たり中小企業のオーナーをターゲットにしてアドバイザーが活躍するチャンスがあると思います。企業のCFOとしてアドバイスをするほか、経営者の個人財産のアドバイザーとしても活躍する余地があります。さらにその企業の従業員の資産形成サポートとしてイデコプラスを広げるなど、福利厚生の面から企業に貢献することもできるはずです。これが今度のアドバイザービジネスの裾野拡大にもつながります。

Q: 現在の日本で資産運用アドバイスの会社を経営するとした場合、どのような形態がベストだと考えるか?

A: 英国のアドバイザー数は2.7万人です。総人口や個人金融資産額でみると日本はその2倍、5.5万人くらいのアドバイザーが必要になるはずです。これはちょうど、コンビニエンスストらの軒数と同じくらいです。そこで、コンビニ経営と同じように考えてみてはどうでしょうか。地元の人に「便利さ」(資産運用の効用)を提供するのがコンビニ(アドバイザー)だとすれば、多少価格(フィー)が高くても存続できます。そのビジネスは、ブランドや、レジのPOSシステム、物流ネットワークなどのプラットフォームを活用して、独自の路線、地元にあう路線を進むといった方法は金融の業界でも考えられないでしょうか。金融こそ地元密着のビジネスのはずです。

Q: 稼げる英国IFAの条件として「コーチングができること」とのことですが、この場合のコーチングとは具体的にどんなことなのか?

A: 顧客の求めているものは多様だと思いますが、私は、最も大切なことは顧客のゴールを常に顧客自身に納得させることだと思っています。相場の変動や環境の変化でついついゴールを見失うことがあるものです。それを客観的な立場でアドバイザーは顧客にリマインドし、そのゴール達成に最も重要なことは何かを伝えていくことだと思います。

Q: 現在アドバイスフィーのみでコーチング型のコンサルティングを行っています。若い世代のニーズが増えていますが、一段と進めるためには、顧客本位でアドバイスを行えるアドバイザーが増え、それは誰なのかを「見える化」することが大切だと思うがどうか?

A: おっしゃる通りです。課題は、アドバイスという定義、または「アドバイスとは何か」にあるかもしれません。ソリューションの提供まで行うのが英国のIFAだと思っています。絵図面だけ書いてもそれを実現する材木や工具がなければ立ち上がりません。今金融市場にある材料や工具を使って、どんな製品ができるかを示すことにあるように思います。そのための制度改革として、「重要情報シート」の導入が決まりました。このシートを縦横に活用して、消費者に資産運用をするためのコストと利益相反の可能性を明示することから、始まるのではないかと思います。