私の心情(62)―お金との向き合い方20-長く働くために

今回はお金との向き合い方のなかで、働き方を取り上げてみたいと思います。

サラリーパーソンから退職

まずは発表です。1982年4月に大学を卒業して山一證券に入社して以来、39年以上にわたって金融業界でサラリーパーソンを続けてきましたが、この4月をもって卒業することにしました。そう、フィデリティ投信株式会社を4月末で退職します(といっても既に3月末で出社していませんが)。

2019年4月末に定年を迎えた折、継続雇用を続けながら自身の会社、合同会社フィンウェル研究所を立ちあげて、退職世代向けの「お金との向きあい方」に関するメッセージを発信し始めました。これからは、そのフィンウェル研究所での活動だけになります。

 

3つの収入

退職世代向けのメッセージのなかでも大切にしているのは、「退職後の生活費=年金収入+勤労収入+資産収入」という『3つの収入』の考え方です。ただ、現役世代と違って、年金収入を増やす方法が繰下げ受給くらいしか見つからない退職世代にできることは、①地方都市移住などを含む生活費のダウンサイジング、②長く働くことで得られる勤労収入の持続、そして③資産を上手に活用することによる資産収入の延伸、の3つに限られます。このコラムが地方都市移住、お金との向き合い方、資産活用アドバイスの3つで構成されているのも、それが背景です。

長く働くための『2段階アプローチ』

今回の退職も長く働くための一環だと思っています。私は、定年という制度に絶対納得できません。ただ、60歳の時点でその後の生活に向き合うことができ、自分の会社を立ち上げる気になり、さらに完全独立までの移行期間を「継続雇用」という形で過ごすことができたのは幸いでした。給与の水準からいえば、2段階で大幅に下落するという形になりますが、私はこれを退職後に長く働くための『2段階アプローチ』だと思っています。

退職後の働き方は、横長の長方形がいいと思います。長方形の縦の長さを年収、横の長さを働く年数と考えれば、同じ面積(=退職後の勤労収入総額)なら横長の方がいいはずです。縦が短いことで税金や社会保険料は相対的に安く済みますし、無理をしないで働くことが自分の健康や精神的な面にもメリットが大きく、横の長さは長くなるように思います。とはいえ、現役時代から新しい仕事環境に一気に移るとなるとなかなか大変です。誰にでも準備期間は必要ですから、その期間を継続雇用という形でサラリーパーソンとして給与を得ながら次のステップに向けて用意するというわけです。

定年制ってダメだな

定年制はやはりダメだと思います。今や「70歳定年」といわれるようになりましたが、定年年齢を遅らせることがいいというわけではありません。会社との雇用契約は自分でも決めることができるようにすべきで、その意味で年齢によって雇用関係が一方的に変えられる定年制は時代にそぐわないものです。現在、企業に義務付けられているのは、65歳までを対象に①定年制撤廃、②65歳までの定年延長、③60歳定年で65歳までの再雇用制の採用です。これに70歳までの雇用を継続するための努力義務が加わったということです。義務付けと努力義務の違いといった強制力の差も課題でしょうが、そもそも定年制を認めることが大きな問題ではないでしょうか。

定年制を認めている会社では、その背景として「従業員の年齢構成が高くなることを懸念している」と言われています。海外では定年退職はDefault Retirement AgeとかMandatory Retirement Ageと呼ばれて、すでに死語といってもいいでしょう。数年前に、ロンドン、ワシントンDC、ボストンと出張をした折に、ロンドンで「資産形成は福利厚生ではなく、人事政策そのものになっている」とコメントしてくれました。これは、定年制が廃止された英国では、企業内における資産形成という考え方が「従業員への福利厚生」といったプラスアルファのサービスではなく、「会社の人員構成の高齢化を避けるため早く引退できるようにするための人事政策」になってきたというものです。

定年制の撤廃は、3つの収入のうちの勤労収入だけでなく、資産収入にも影響を与えるということでしょうか。私の2段階アプローチがうまくいくかどうか、ぜひ見守っていただき、参考にしていただければ幸いです。