私の心情(69)―地方都市移住20-移住をしなければ食費を減らす!?

フィンウェル研究所の活動の前提となっている考え方は、
退職後の生活費 = 年金収入 + 勤労収入 + 資産収入
です。

退職後の生活費は原則この3つの収入で賄われると考えて、年金収入を増やす方法のない退職後の世代には、①退職後の生活費の削減、②勤労収入の拡大、③資産収入の拡大、の3つが基本的な対策だと思っています。①は医療・介護費、税金・社会保険料、食費が3大支出ですが、地方都市移住をすることで住居費や生活費全般でコストが削減できるはずです。この点は、私の心情(67)でアンケート調査の結果と合わせてまとめました。

資産不足を補うための対策は「長く働くこと」と「生活費の切り詰め」

今回は「あなたの保有資産で退職後の生活はカバーできますか?」の設問に対して、「全く足りない」と答えた人の対策を分析することにします。60代で東京、大阪、名古屋に在住か、そこから10年内に地方都市に移住した2305人のうち、資産を保有している1825人が対象です。下のグラフは前回のコラムで紹介しているので、内容は割愛します。

このグラフで「まったく足りない」と回答した人にその対策を尋ねたところ、移住を考えたことがない人、あきらめた人、検討中の人は、ともに「長く働くこと」と「生活費を切り詰めること」がほぼ拮抗していることがわかりました。下のグラフです。

先の等式で言えば、年金収入と資産収入に頼れないので、残りは生活費の削減と勤労収入の拡大しかないということです。ただ、どちらかといえば「長く働く」=勤労収入の方に比重がかかっているように思えるのですが、勤労はそもそも加齢に伴って難しくなるという潜在的な課題を持っていますから、60代にとって必ずしも良い選択肢ではないかもしれません。

移住しても資産が十分でない人は生活費の切り詰めを想定

これに比べて、移住した人は「長く働くこと」よりも「生活費を切り詰めること」に比重を置いていることもわかりました。「移住をすると生活費の切り詰めがしやすくなる」というポジティブな受け止めかたもできますし、逆に「移住すると働きにくくなって、生活費を切り詰めざるを得ない」というネガティブな見方もできそうです。ただ、繰り返しになりますが、「長く働く」というのは期限のある対策だという点は念頭に置く必要があります。

生活費の切り詰めの半分は食費の削減

では生活費の切り詰めは何で行うかといえば、最も多いのが食費の切り詰めでした。こうしてみると、特に移住を考えていない人は、保有する資産で退職後の生活費をカバーできないと考える人が多く、その対策として、長く働くことと食費を中心とした生活費の切り詰めを想定していることがわかります。この流れはかなり厳しい現実を突きつけているのではないでしょうか。現役時代に十分な資産を作り上げておくことが必要なことが改めてわかります。

移住検討者はバランスの取れた対策を想定

さて、最後に移住と資産運用に関するクロス分析も紹介します。2019年と2021年の結果があまり整合的でないことから一概には言えないというのが結論でしたが、強いて指摘すれば移住を検討している人が退職後の生活を考えるうえで選択肢を広く持っているという印象です。すでに言及した通り「移住検討中の人」は「生活費削減」と「長く働く」ことに等しく力点を置いており、さらに資産運用も行っており、非常にいいバランスで考えているように映ります。