私の心情(74)―お金との向き合い方23-高齢者保有資産の推計

メディアの取材を受けるなかで、コラム「私の心情70」の“高齢者が「負債」ではなく「資産」になる”のなかで紹介した数値をわかりやすくまとめておくべきだと思いましたので、ここで紹介します。「高齢者の保有する資産は2000兆円以上」と伝えているその数字の根拠になります。

個人資産、2019年に初めて3000兆円台に

資産の内訳から考えてみます。最新の国民経済計算(2019年度)では、個人が保有する金融資産と土地・非金融資産の合計(私はこれを個人資産と呼んでいます)は3032.8兆円です。長らくこのデータを追いかけていますが、合計額が3000兆円を超えたのは2019年が初です。その内訳は金融資産が1883.8兆円(構成比62.1%)、土地が709.7兆円(同24.0%)、その他非金融資産(国民経済計算では個人企業も含まれるため、生産設備や在庫など)が421.3兆円(同13.9%)です。「高齢者の資産」というときには、大きく分けて金融資産と土地を考慮する必要があることがわかります。なお、個人資産の推移に関しては、私の心情53を参照してください。

高齢者の保有する金融資産は1200兆円強

まず個人金融資産ですが、私もメンバーで参加した金融審議会市場WGが2019年6月に提出した報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、2014年の推計値として60歳以上が保有する個人金融資産の比率は65.7%としています。この比率を2019年の個人金融資産に掛け合わせると、高齢者が保有する金融資産の総額は1237.7兆円と推計されます。

高齢者が保有する土地も含めれば2000兆円水準か

次に個人が保有する土地ですが、金融資産よりも高齢者に偏在しているように思われますが、データがないために年齢別の土地評価額の分布状況は推計するしかありません。高齢者の資産配分に近いと思われるのは、相続資産の分布ではないかと考え、そこから逆算してみようと思います。

2019年の相続市場は国税庁の統計によると16.8兆円です(これは課税対象資産だけを対象にしていますので、実際には40-50兆円あると推計されています)。その内訳は有価証券・現金・預金で8.2兆円(構成比48.9%)、土地5.7兆円(同34.4%)、家屋0.9兆円(5.2%)、その他1.9兆円(11.5%)です。相続を受け取った人のデータを集計していることから、保険などは現金・預金として計上されますので、高齢者の保有資産としては現金・預金の比率はもう少し低いのではないかと思われます。また、土地と家屋を合計すると相続資産の4割を占める点も注目できます。一方でこのデータは相続税を納めた人の数値となりますから、相続金額の大きい富裕層に偏っている可能性も考慮する必要があります。

金融資産に対する土地・家屋の比率は81.0%になりますから、先述の金融資産推計1237.7兆円から推計して土地・家屋は1002.2兆円と推計されます。この金額は国民経済計算の土地とその他金融資産合計1149.1兆円のほとんどを占める(87.2%)水準ですから、そのまま累計するわけにはいかないでしょう。とはいえ、合計すれば2000兆円に近い水準になりそうです。