私の心情(81)―地方都市移住28-家賃は4分の1(松山)

ご存じの方も多いと思いますが、私は長らく「退職後の移住先として“四国”松山市を注目しています」とお伝えしてきました。そして今回初めて、愛媛県松山市に移住されたMさんにインタビューすることができました!

松山市にUターン

松山市生まれのMさんは、現在64歳。高校を卒業後、京都で大学生活を過ごし、大手金融機関に入行、大阪、ニューヨーク、東京と転勤。しかし入行した金融機関は金融危機の折に経営破綻しました。その後、国有化されるなか在籍していましたが、11年後には製造業に転職するなど、多くの変遷を経たサラリーマン人生を送りました。25年間住んだ東京も代田橋、つつじが丘など京王線沿線で何度も転居されています。そして61歳で退職して、故郷の愛媛県松山市に夫婦で移住されました。

今は松山駅から南に2㎞ほど離れたところで、60㎡ほどの賃貸マンションに住んでいらっしゃいます。そして「来年3月には新築1戸建てが近くに完成して、そこに移る予定」とのこと。

戦国時代から続く庄屋

実家は、さかのぼると戦国時代までは確認できる地元の庄屋一族。2年前に亡くなった母親から遺産として「土地を相続したことから、一部を駐車場として活用しながら、自分の家を建てることもできた」と。ある意味で羨ましいUターンといえます。

新築する自宅の上物の費用で蓄えのほとんどを使ってしまったが、60歳から受け取っている企業年金、62歳からの公的年金、それに駐車場からの賃料で、「生活費は十分賄えている」とのこと。しかも奥様は薬剤師として働いていらっしゃって、「アルバイト程度の収入はある」とのこと。金融資産はほとんどないが、キャッシュフローは確保されているという典型的なパターンといえそうです。

月に1回くらいは東京や大阪へ

趣味は観劇と登山。「歌舞伎が好きで、演劇が好きで、そして5年前から始めた登山も仲間がいることで楽しい時を過ごせます」との言葉通り、コロナ禍の前は毎月、東京か大阪に出かけていらっしゃったようです。「7対3で東京に行くことが多い。やっぱり舞台は東京の方が多彩です」。それに「山岳会の仲間は東京にいるので」とのこと。実は5月もインタビューした前日までの1週間ほど、東京で舞台などを楽しんでいらっしゃいました。ビジネスホテルに宿泊して、観劇中心の生活。今回、奥様は同行されませんでしたが、東京にお子様家族が住んでいらっしゃって、孫の顔を見るために同行されることもあるようです。

松山市は空港までのアクセスが良いこともあって、こうした東京や大阪との実質的な距離の近さも魅力なのかもしれません。東京、大阪とはいえビジネスホテルに連泊すれば、それほどコストも高くないはずです。

家賃は月5万円、車もいらない生活

それに松山市は家賃が安い。「つつじが丘近辺で生活していた時、家賃は月20万円くらいだった。しかし今の賃貸マンションは月5万円」。実に家賃は4分の1で済むわけで、この差額だけでも月に1週間くらいの東京や大阪への観劇旅行代は十分に捻出できます。その意味でもこの移住は採算にあうように思います。

またそれだけ家賃が安いにもかかわらず、公共交通は使いやすく車の要らない生活が送れているとのこと。

移住の課題のひとつは保守的な土地柄

こうした話を伺っている限り、土地のある実家に戻って暮らす理想的な地方都市移住の生活に映るのですが、Mさんは「必ずしも松山への移住をお勧めしない」ともおっしゃいます。「自分が住んできた大阪でもニューヨークでも東京でも、『松山は良いところですね』といわれたが、かなり保守的な土地柄」で、「部外者が中に入るのは簡単ではない」と指摘されます。「もちろんすんなりと溶け込む人もいるので絶対に無理とは思わないが、溶け込める人とそうでない人の違いはどこにあるのかまだ自分にもわからない」とも。

インタビューを終えて

ちなみに、Mさんは“四国”松山市という私の表現には違和感があるとのこと。「四国とは伊予、土佐、讃岐、阿波の4つの国の意味で、それぞれ文化的・経済的な差異が大きい」とおっしゃるMさんはまさしく地元への思いが強い方なのかもしれません。これが理解できることが溶け込めるかどうかの違いかもしれないな、と私自身はそんな感想を持ちました。

インタビューをさせていただく方の多くが、「ここは保守的な土地柄」とよく指摘されます。東京、大阪、名古屋といった大都市での生活は、どの程度開放的なのでしょうか。保守的な土地柄かどうかを感じないように生活の距離感をもって過ごすのが都会の生活だとすれば、地方都市移住は保守的と感じる生活を敢えて受け入れる生活なのかもしれません。

とはいえ、3月に実施したアンケート調査では、意外に多くの方が移住先で新しい生活パターンを得たと評価されているのがわかりました。3大都市から地方都市に移住した60代269人のうち72.9%が移住して良かったと答えています。その理由を複数回答で選んでもらった結果、最も多い52.0%の人が選んだのが「生活費の削減ができたこと」でした。しかし「新しい趣味などが見つかり生活にゆとりができた」、「新しい人とのネットワークができた」、「家族・夫婦の関係がよくなった」もそれぞれ15-26%あって、そのうちどれか1つでも選んでいる人はこちらも52.0%に達しています。地方都市移住が必ずしも生活の質を落とすわけではないようです。