私の心情(138)―資産活用アドバイス53-デキュム期の「分割投資」(NVICの奥野さんとの面談から-その2)

 

 

 

 

 

 

前回に続いて農林中金バリューインベストメンツの奥野さんとお話したポイントから、デキュムレーションとアクティブ・ファンドについて、考えを整理します。今回は、「退職時点で現金が3000万円ある。投資はいくらすればいいのか」と、これもよく聞かれる「退職金をどうやって運用したらいいのか」系の質問です。

前回同様に、議論の内容はあくまで私の考えで、奥野さんのお話が必ずしもそれを意図しておられたわけではないことを、最初に明記させていただきます。

退職してから投資を始めるのは心配

「現金3000万円あって、これを資産活用のアイデアで運用を始めたいがどうやって投資をしたらいいのか」と聞かれることが多くなりました。正直なところ、これまで投資経験がなければ、この段階で始めることはできる限りお勧めしません。

こうした状況で、金融機関がよく使うフレーズは「有価証券投資は余裕資金で行ってください」です。その「余裕資金」というのは、どこか「万一無くなってもいい資金」と言い含めるニュアンスがあります。損したときには「余裕資金で行ってくださいと言いましたよね」といわれるような気がしませんか。そもそも無くなってもいいお金なんてあるはずがありません。以前、現役世代向けのアンケート調査で「余裕資金があったら何に使うか」と聞いたところ、半数が「将来のために預金をする」と答えていました。「今使うのではないが、いつか使うお金が余裕資金」という理解ですね。

運用資産に手を付けないで済む年数は?

投資経験がない人が、退職後にどうしても投資をしたいという場合には、「いつか使うけど今使うわけではない資金」、すなわち余裕資金をどう設定するかを、2つの時間軸を持つことで検討すべきだと思います。

1つ目は、「私の心情137」と同様に「運用資産に手を付けないでどれくらいの期間の生活を維持できるか」と考える時間軸です。定年後も働くことで勤労収入が期待できて、その間は「資産からの取り崩しが限定的で済む」とすれば、一部を運用に回せる可能性が高くなります。例えば、その年数を5年と想定でき、資産からの限定的な引き出しが月額10万円であれば、総額は600万円です。もちろん生活資金だけでなく、万一の際の資金も用意しておきたいと思えば、さらに別の資産を取り分けておくことも必要でしょう。あわせて1000万円と想定すれば、それを差し引いた残りの2000万円を資産運用に回すことが可能だと考えるわけです。

さて、3000万円の金融資産のうち2000万円を運用に回すというのは、投資初心者にとってはかなりハードルが高いものではないでしょうか。ただ、これは前回の「私の心情137」で、現役時代に有価証券を使って2000万円を作り上げてきた場合と同じアロケーションなのです。でも、違いは資産を創り上げてきた経緯です。それがマインドセットにおいて、いかに大きいかお分かりいただけるでしょう。そうであれば、この段階で無理をして資産運用をする必要はありません。その資金で退職後の生活を豊かに暮らす方法を探ることが重要です。

ところで、このマインドセットの差こそ、現役時代からの有価証券を使った資産形成の重要性を感じさせるところでもあります。

「積立投資」ではなく「分割投資」で

それでも投資をしたいという場合の投資方法ですが、一括投資ではなく投資予定額を何回かに分けて時間分散の効果を考えるべきだと思います。これを積立投資とは別に、私は「分割投資」という言葉で呼んでいます。その分割の仕方が2つ目の時間軸です。

こちらの時間軸は、いわゆる積立投資と比べると決して長くありません。運用資産の取り崩しを始めるまでの期間は5年と想定しましたから、それまでに2000万円の資産 (もちろんもっと少ない総額にしても問題ありません) を運用資産に切り替えるわけですから、これを毎月投資していくと、月33万円強の投資を60か月続けることになります。四半期ごとなら100万円ずつ、半年なら200万円ずつ投資に回すという行動です。

この金額を考えると、やはり投資初心者が退職してから投資を始めるのはかなりハードルが高いことだとわかります。

ファンドの「復元力」

さて「分割投資」の課題は、「積立投資」と比べて投資期間が相対的に短いことでしょう。ドルコスト平均法は、「長期にわたって定額投資をすることで平均単価が下がることから、現在の価格が投資開始時点の水準を下回っていても、平均単価を上回っていれば収益が出る」というメリットをもたらします。しかし、その期間が短いと、「平均単価を引き下げる効果が十分でないだけでなく、取り崩しを始めようとする際の価格が平均単価を上回っていない」懸念もあります。

そこで大切なのが「ファンドの復元力」ではないかと思います。「運用しているファンドの価格が下落した場合に、もとに戻るまでの平均期間はどれくらいですか」と奥野さんに聞いた回答が思い出されます。奥野さんは、「自分が運用しているファンドはバックテストした結果、長くとも5年保有すると元の水準に戻っている」と即答されました。「銘柄を集中投資しておりほとんど入れ替えをしない」ので、バックテストの意味が相対的に高いことは抑えておくポイントですが、復元にかかる期間がある程度のレベルで想定できるなら、その期間に「分割投資」をするという視点も出てくるのではないでしょうか。