私の心情(160)―資産活用アドバイス59-60代の満足度と資産水準-その2

前回のコラムに続いて、「60代6000人の声」アンケートの分析結果をまとめます。分析の視点は、「資産水準が退職後生活の満足度を高めるのだろうか」、「どの程度影響するのだろうか」だったのですが、具体的には世帯年収と世帯保有資産のどちらの影響力が大きいのかを比較する分析を行いました。実際、一般的な満足度の調査では、年収を取り上げることが多く、年収の多い人ほど満足度が高いという結果が知られています。しかし退職世代では年収は、現役層に比べて影響力が小さくなるのではないかと考え、代わって資産の大きさが満足度に影響するようになると考えました。

14項目の変数を説明変数として回帰分析

分析の方法などは詳しく説明する紙面はありませんので、概要だけ簡単にまとめますと、

  • 「Well Beingを5つの構成要素でできている」との考え方は、前回のコラムで説明しました。Well Being=「生活全般の満足度」、Career WellbeingとSocial Wellbeing=「仕事・やりがいの満足度」、Financial Wellbeing=「資産水準の満足度」、 Physical Wellbeing=「健康水準の満足度」、そしてCommunity Wellbeing=「人間関係の満足度」としました。『生活全般=仕事・やりがい+資産水準+健康水準+人間関係』の等式が前提です。
  • さらにアンケート調査の設問の中から、①性別ダミー(女性=1、男性=0)、②就労ダミー(就業している=1、退職している=0)、③配偶者ダミー(夫婦=1、単身・その他=0)、④子どもダミー(同居している子ども有=1、子ども無し=0)、⑤親ダミー(同居している親有=1、親無し=0)、⑥公的年金受給(受給=1、未受給=0)、⑦資産運用(資産運用している=1、していない=0)、⑧世帯保有資産(世帯保有資産の階級値を100万円単位の数値とし、Log値で分析)、⑨世帯年収(世帯年収は勤労者では現在の年収、退職者は退職直前の年収を回答。階級値を100万円単位の数値とし,Log値で分析)、⑩都市の推奨度(現在住んでいる都市を退職後に住む場所として他人に薦めるか、やめた方が良い=0、是非住んだ方が良い=10)、の10項目を説明変数として抽出しました。
  • 5つの満足度それぞれを目的変数にして、残りの14項目を説明変数として、重回帰分析と順序ロジスティック回帰分析を行いました。重回帰分析では係数の大きさと符合に注目し、それぞれの影響度の大きさをみています。

世帯年収の方が大きな影響を持つ

ひとつだけ、生活全般の満足度を目的変数にした重回帰分析の結果を、図表1にまとめて紹介しておきます。この表からわかることは生活全般の満足度を説明するモデルにおいて、世帯収入と世帯保有資産はともに有意に影響を持っていて(1%の水準で有意に関係がある)、世帯年収の影響力の方が大きい(偏回帰係数が大きい)ことがわかります。

これを他の満足度を目的変数にして行った結果も合わせて、次のような形でまとめてみました。世帯保有資産と世帯年収を比べて、有意水準が1%で、偏回帰係数がプラスであることを◎として示してみると、「世帯保有資産は60代の生活全般の満足度に影響を与えているものの、それは退職者を中心に資産水準の満足度を高める形で影響している」ことがわかります。一方、世帯年収は仕事・やりがいの満足度を高めることで、60代でも勤労者を中心に生活全般の満足度に影響を与えていることがわかります。

その他に分かったことは、

資産運用をしていることそのものが生活の満足度につながる

世帯保有資産が大きいことが生活の満足度につながるというだけではなく、資産運用をしていることそのものが生活全般の満足度を高めているようです。

仕事はしたくない

仕事をしていることは生活全般の満足度を引き下げる関係が示され、できるだけ長く働くことを推奨する一般的な指摘とは異なった結果となりました。ただ、働いていることは、健康水準の満足度には影響している証左はなく、資産水準の満足度と人間関係の満足度との関係では有意性はないもののマイナスに影響するような関係がみられました。総じて60代においては、金銭面,精神面に複雑に影響を与えているように窺えます。

家族構成も影響大きい

配偶者の存在は、生活全般の満足度を引き上げるのですが、同居の子どもがいることは引き下げるように働き、同居の親がいることは明確な関連が見つかりませんでした。60代にとって配偶者はプラスでも、子どもや親はその存在が負担になることから満足度を引き下げる、またはプラスに働かないようです。

こうした点はもう少し追加の分析が必要になりそうです。