私の心情(185)―地方都市移住53-“だろうな”の性格を直さないと(京都)

やはり京都はいい街だ

京都の駅近ホテルの喫茶店でインタビューをさせていただいたDさんは、68歳。65歳の奥様と東京から京都に移住してきてもう10年ほどになります。元々生まれは京都で大学まで住み続けていたものの、就職したデザイン関係の会社は大阪、その後東京に転勤となり、そこで20年ほど住んできました。2012年に大阪に転勤になり、その時、通勤圏の京都に住んで、改めて京都はいいところだと思ったそうです。

実家は京都にあったのですが、そこに住むことはありませんでした。というのも、両親の介護が必要になったときに、東京にいた妹が夫を残して、子ども3人を連れて実家に移り住んでくれたことから、今、そのまま妹の家族が住んでいるためです。

賃貸からスタート

Dさんの京都生活の再スタートは、東山の賃貸マンションでした。古かったからこそ家賃は10万円ちょっとという破格の値段で借りられたのですが、東山という地の利の良さから京都らしさを堪能することができるロケーションです。「京都はやっぱりいいところだ」と思うのも当たり前かもしれません。

それが2019年の退職とともに、同じ京都市内ですが、四条大宮に引っ越しました。「東山に比べると、コンクリートが多くて緑が少ない感じ。どこか京都じゃないみたいだ」といった第一印象を持ったようですが、「でも、歩きながらちょっとしたものに目を向けると、いろいろ発見があって楽しい街です」と今の生活にもまんざらではないようです。

持ち家に引っ越す

ただ引っ越しの理由が、退職後の生活らしいところにあるのは、強調しておきたいところです。たとえ破格の安さとは言え10万円強の家賃を毎月払い、それが95歳まで続くと考えると、それだけで総額は4000万円近くになります。「月々の収支予想をエクセルに400行も入力してみたところ、そんなに資産はない」ことがはっきりしたことから、持ち家に住み替えることを決断したとのこと。とはいえ、その時の保有資産は2000‐3000万円だったため、できるだけ安い物件を探すことが必須条件でした。

購入したのは2階建ての3LDK。もちろん土地付き。私の第一印象は「安いわけはない!」でしたが、購入価格を伺うと1800万円とのこと。その安さに、唖然としました。それも四条大宮ですから、京都駅にはかなり近いところですし、歩いて生活をしようと思えば繁華街にも行けなくはない近さです。にもかかわらず、1800万円!ただ詳しく伺うと、物件は途中にリフォームをしてきたとは言え、築100年ほど!そんな築年数の物件があるというのも京都らしいところかもしれませんが、登記は電子化される前だったらしいとのことで、本当に驚きです。

もちろんDさんも購入後に間取り変更と断熱のために800万円ほどかけてリフォームをされたそうですが、それでも合計で2600万円ですから、悪い話ではありません。先ほどの4000万円とくらべても持ち家にすることで総コストは低下しますし、高齢になるほど賃貸契約の更新が難しくなることを考えてもその決断は前向きだと思います。

手元資産が心配に

しかし金銭面から考えると、家を買ったことで心もとない状況に陥っています。保有資産は、自分名義の口座に数百万円、奥様の口座は不明とはいえ、「自分より少ないのでは」とみています。何しろ、リフォーム費用800万円を捻出するためにリバースモーゲージを活用して300万円ほど借りたほどですから。リバモの返済は自身の死亡時なのであまり負担に感じていないというものの、「金利は高いんですよ」とちょっぴり不満げでした。

「60代6000人の声」アンケートで、Dさんは「資産水準の満足度」を1点、すなわち「満足できない水準」と回答していますので、この資産額が少ないとわかっていらっしゃいます。「どうしてもっと資産を残さなかったんでしょうか」と伺ったところ、「現役時代はそれほど真剣に考えなかったんですよ。資産を残さなければならない“だろうな”とはわかっていたんですが」と。ただ、この“だろうな”というのが本人曰く、「ちょっと曲者」です。断言するのではなく、“可能性として言葉を締める”ことで、どこかで“何とかなるかも”という期待感を残している、そんな言い回しのようです。

仕事はできればしたくない

昨年は、年間で300万円ほどの仕事での収入があったとのこと。仕事は現役時代の専門性を生かしてグラフィックデザインを1人で“細々と”やっていらっしゃいます。ただ、そんなに仕事をしたいわけではなく、できれば何もしないで美術館に行ったり飲み屋めぐりをしたりして、ぼんやり生活しているのが好きなんだとか。確かに現役時代は朝早くから夜遅くまで仕事をして、土曜日も仕事をしていた。

でも何かに向けて準備をするというのがそもそも好きではないとのこと。以前、Web marketingのスキルを高めようと、自分を追い込むために大枚をはたいて教材の購入などをしたものの、結局進んでいないとの逸話も自身の性格を表す典型例だと紹介いただきました。「だからかもしれないけれど、今は本当に一日中ぼんやりしていられることが楽しいです」と。

ちなみに、その仕事の関係でも借金があります。新型コロナウイルス禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で融資する仕組み、いわゆるゼロゼロ融資を400万円借りているため、「これも返済が来るんですよ」とちょっと憂鬱気味です。どうもこの資金も事業拡張、事業継続というよりも手元資金を確保しておきたいという気持ちが大きかったように感じます。

介護保険料の督促!

68歳となった今年から満額で年金を受けとることにしました。受給額はご本人分が250万円、奥様が50万円ほど。実は年金受給は繰り下げを選択してきました。奥様の加給年金を受け取るために高齢厚生年金部分だけ65歳から受け取るようにして、老齢基礎年金は繰り下げていたのですが、意外なことが発生しました。

介護保険料は老齢年金から引き落とされると思っていたのが、老齢基礎年金から引き落とされるようになっているため知らないうちに保険料が未払いになっていたのです。突然、介護保険料の支払い督促状が届いてびっくりしたようで、そこで老齢基礎年金も受給することに変えたそうです。そんなことがあるとは知りませんでした!

支出は過大気味

支出についても伺っています。東京にいたころと京都に移住してからで、それほど生活費に変化はないと感じています。東山時代の状況ですがとの前置きがあって、「家賃共益費13万円、通信光熱費10万円、生活費は主に食費で13万円くらいはかかっていました」。

今は、家賃がいらなくなったとはいえ、固定資産税や維持費、それに借り入れの利息や返済、さらに生命保険料の支払いなどを考慮すると、年間の必要経費としての生活費は300万円を優に超えることになると思います。このほかに医療費や趣味の費用なども念頭に入れる必要があります。

インタビューを終えて

これまで多数の地方都市移住をされた方にインタビューをしてきましたが、今回のDさんは資産形成が成功していなかったタイプのようです。しかしインタビューは楽しいものになりました。それはDさんの考え方にあるように思います。

「毎年、今年で最後と言っている妻のアーティストの追っかけツアーはそろそろ最後にしてほしい」とのつぶやきは、かえって楽しそうに聞こえました。本人曰く、「いつも今がこれまでで一番幸せな時だなと思うんですよ」と。これを楽観的と言ってしまえばそれまでですが、どこか「これがいい人生を送ると秘訣」のように感じます。奥様もおなじ感じの人柄なのではないかと、お話の端々にうかがわれますので、ご夫婦でいい京都生活を送られているのでしょう。

でも最後まで「このままでは資産が足りなくなる“だろうな”」と、“だろうな”が付く言葉が残りました。ここにこそ改善の余地が。