私の心情(220)―お金との向き合い方75-第13回デキュムレーション研究会:国民の安定的な資産形成の支援に関する基本方針

1月26日に金融審議会 市場制度ワーキング・グループと顧客本位タスクフォースの合同会議が行われ、「国民の安定的な資産形成の支援に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」に関する審議が行われました。主要ポイントである金融経済教育推進機構の創設などは、当研究会での議論の重要なポイントになり得るとして事務局資料にある「ご議論いただきたい事項」について議論しました。

デキュムレーションの視点を超えて議論は百出、今年第1回目の研究会はいつも以上に盛り上がりました。ここには、研究会としての意見というよりは、メンバーのそれぞれの意見を類型し、列挙してあります。

 ■国民の安定的な資産形成を支援する意義として、国民一人ひとりの幸福や厚生を実現することのほか、「成長と分配の好循環」や公正で持続可能な社会を実現することが挙げられるが、これらの他に国民の安定的な資産形成を支援することで実現すべき姿はあるか。

➡実現できる姿として、雇用拡大や給与増の社会もあり得る。

➡資産形成だけでなく、出来上がった資産の取り崩しを含めた資産活用にも目線を向けるべき。

➡資産形成の目的は「国民一人一人の幸福や厚生を実現すること(=いわゆるWell-being)」で、それ以外に求めるべきではない、との意見に多くのメンバーが賛同。その一方でいわゆるWell-beingを資産形成だけでできるものではないとの指摘もあった。必要条件ではあるが、十分条件ではない。

■国民の安定的な資産形成の支援のために必要な調査及び研究として、国民の資産形成の実態や国民が受ける支援の実態を把握することが重要であるが、本基本方針に掲げた施策の実施状況や効果を評価する必要性も踏まえ、具体的にどのような調査を行うことが望ましいと考えられるか。

➡継続的な「パネル調査」を行うことで、同じ対象者が時間の経過に伴い、どのように移り変わっていくかを捉えられるような調査。テーマは、行動変容だけでなく考え方の変容も追跡したい。

➡金融経済教育を行う側の調査も必要ではないか(昨年日本CFA協会で小規模なものを実施)

■国民の安定的な資産形成を国全体として総合的に進めるためには、関係行政機関や金融経済教育推進機構、地方公共団体、民間団体等の連携が重要であるが、具体的にどのような形の連携が効果的であると考えられるか。

➡中小企業従業員向けを担当できるような主体が必要。地方の金融広報委員会は、機構に統合されず、地方の拠点になるのかも。

➡7₋800人といわれる認定アドバイザーで教育や相談などをすべてカバーできると思えない。英国のPension Wiseでは金融機関のボランティアが多数活動していた。相談員等は金融商品・サービスを提供しないことが条件なので、この相談員にボランティアを活用してはどうか。

➡公的機関との接点を重視。例えばハローワークの講習のなかに標準講習資料を使ったテーマ(例えば社会保障制度等)を組み込んではどうか。同様に運転免許の更新時、確定申告申請時、高齢期の各種申請時などでも可能性がある。

➡確定拠出年金の継続教育の現状を鑑みると、参加者をどう集めるか(興味を持ってもらうための施策)の方が重要

■その他、国民の安定的な資産形成の支援に関する施策を国全体として総合的かつ計画的に推進するための中長期的な方針として、「基本的な方針」に盛り込むべき事項はあるか。

➡家計金融資産のバランスの良い成長の視点でみると、その2/3を保有する高齢層がその資産を一括で現金化する傾向をどう抑制するかも重要な点だと考える。

■機構の教育活動を抜本的に拡充するためには、地方を含めて「学びの場づくり」に取り組むことが重要であるが、企業の従業員向けセミナーを広く支援・促進する場合、どのようなステークホルダーとの連携を追求すべきか。その他に、「学びの場づくり」に向けて、どのような取組みを進めていくべきか。

➡親子、祖父母孫のセットでの学びの場

➡マイナポイントの付与といったインセンティブ

➡お金の日の祝日を制定。Global Money Weekは世界的に行われるイベントだが、あまり知られていない。FPフォーラム等既存のイベントを活用するためにも全国一斉にイベントを行うことが有効かも。

➡金融経済教育に積極的な企業に対する税制補助が不可欠

➡雇用にメリットがある点を強調する。求人広告には資産形成へのサポートの有無が表示されるようにする。

➡労働組合へのアプローチも必要。

■機構が実施する個別相談事業については、アドバイスの意義や価値を見出してもらえるよう、できるだけ多くの方に気軽に体験していただくことが重要であるが、周知・案内方法、相談対応日時、その他事業の実施方法について、どのような点に留意すべきか。また、様々な相談が寄せられることを念頭に置くと、相談員には幅広い知識・経験が求められると考えられるが、どのような業務経験やスキルを有していることが必要と考えられるか。

➡子どもの夏休みの宿題に金融のテーマが多く取り上げられるようなイベントの開催

➡出産・介護などライフイベントに関わる施設・窓口で、そのイベントに関わるお金との向き合い方のセミナー・情報提供の告知を行う

➡税制そのものを知ってもらうことがお金との向き合い方に重要

■認定アドバイザー制度については、真に顧客の立場に立ったアドバイザーとして相応しい認定要件と評価可能か。金融機関についても、一定の開示などを行っていれば認めても良いのではないかとの意見に対しては、制度の根幹に影響するので慎重であるべきではないかとの意見も聞かれるが、どうか。認定アドバイザーに相談する場合の相談料を一部補助する仕組みを創設予定であるが、このほか、個人がより良いアドバイザーに相談できる環境を整備する観点から、どのような点に取り組むべきか。

➡認定アドバイザーの要件のみならず質の確保に課題が残るのではないか

➡機構外で活動する認定アドバイザー、特に金融商品・サービスを提供できるアドバイザーはかなり少ないのではないか

➡認定アドバイザーを決めることが、「認定されないアドバイザーは良くないアドバイザー」との認識を持たせることになるのではないかとの懸念が残る。

➡顧客の立場に立つためには、①自社グループ商品への誘導、②手数料の高い商品への誘導を止めることが重要。金融商品・サービスを推奨しないアドバイス(機構の相談業務と同じ)であれば、金融機関に認めても問題ないのではないか(前向きに行うかどうかは別だが)。将来的には、手数料バイアスを排除することを担保に「限定的な商品・サービスを提供するアドバイザー」というカテゴリーを認めることも視野に入れていいのではないか。

➡認定アドバイザー制度の重要な目的の一つは、商品販売と切り離すことで、顧客との利益相反のない顧客本位のアドバイザーを「見える化」すること。一定条件をつけて金融機関を認めることには一定の利益もある一方、「商品販売と切り離したアドバイザーの創設」という制度の重要な目的が揺らぐ。利益と不利益を比較考量する場合、少なくとも制度発足時、金融機関は認めるべきではない。

■機構において作成する標準講義資料は、金融リテラシー・マップの記載に基づき作成予定であるが、P25において示したテーマのほかに盛り込むべき内容はあるか。対象層として学校・職域・一般と大きな区分を設けているが、このほか、講義内容について特に配慮が必要と想定される対象区分はあるか。

➡標準講義資料の詳細コンテンツのなかに、退職前後世代向けの資産の取り崩しに関するテーマを加える。

■機構のKPIを設定する際に、機構の事業活動の直接的な成果であるアウトプットと、その他の要因も含めて判断されるべきアウトカムは区別して位置付けるべきであると考えられるが、どうか。機構の事業活動の効 果測定に資する調査項目として、P28~29において示した例が考えられるが、どうか。そのほかに、個人が金融経済教育を受けている具体的な場の広がりや、機構の提供する金融経済教育を受けた人からの評価を都度収集することも考えられるがどうか。

➡金融経済教育の受益を示す「教育を受けた人の比率」を20%に設定することは重要。金融行動の変容を示す「生活設計を立てた人の比率(現状36%)」もKPIにしてはどうか。

➡職域では金融経済教育を受けているはずなのに、それを金融経済教育だと認識していない人が多い。この認識ギャップの解消も必要。

➡機構の提供する金融経済教育を受けた人からの評価を都度収集することで、金融教育の効果を測定し、かつ教育内容の改善に向けてPDCAサイクルを回す。実施が難しいかもしれないが、1か月後に行動変容について再度アンケート調査を行うのもいいだろう。