私の心情(232)―お金との向き合い方79―日本の投資家の拡大余地

日本の投資家数はどれくらいでしょうか。私は即答できなかったのですが、皆さんはいかがでしょうか。

日本の個人金融資産はどれくらいかと聞かれると、すぐに回答できる人は多いと思います。金融ビジネスでみれば、投資家数というのはかなり重要な情報のはずなので、お恥ずかしい限りです。

ある雑誌への寄稿で、日本の個人投資家の拡大余地を米国との比較で考えてみようと思い、数字を拾い出してみました。なかなかはっきりした数字がでてきませんが、米国と比べるとかなり伸びしろがありそうなことはわかりました。いくつかのアンケート調査から最近の投資家層の規模感を紹介します。

個人株主数7000万人弱―株式分布状況調査

投資家の数ということで最初に思い出すのは、個人株主数です。東京、名古屋、福岡、札幌の各証券取引所が共同で発表している株式分布状況調査では、個人株主数が延べ数で集計されています。そのデータによると、近年、増加が顕著になっていることが示されています。30年前の1994年度の個人株主数は、バブル崩壊で2721万人弱と前年度比12万人減となり、12年ぶりに前年度比で減少しました。95年度も2704万人弱へとさらに減少したのですが、その後、増加トレンドに転じ、2005年度には4000万人台に乗せています。しかしそこから再び10年ほどほぼ横ばいの状況が続き、NISAが導入された2014年度の個人株主数は延べ4582万人でした。

そこから2022年度には6983万人へと大きく伸びています。上昇相場にあったこと、非課税制度が相次いで充実されたこと、「老後2000万円問題」などで資産形成の必要性が訴求されたこと、そしてコロナ禍で投資に向き合う時間ができたこと等、多くの要因があったためと思われます。

ただ、総人口の6割ほどに相当する7000万人弱という規模感は延べ数による嵩増しが大きく、実際の株主数からは大きく乖離しているとわかります。もちろん、ここにきて株主数が増えているという傾向は間違いないところだと思います。

有価証券保有世帯比率は24%―全国家計構造調査

5年ごとに実施される全国家計構造調査からは、世帯数での保有比率が推計されます。最新値が2019年調査と少し古いのですが、表では1999年からの有価証券保有世帯比率の推移を世代別に見ています。それぞれの年代で有価証券を保有している世帯(二人以上の世帯)の比率を計算すると、その水準が若年層で高まっていることがわかります。例えば、30歳未満層は1999年には6.6%だったが2019年には12.0%に高まり、30代も16.2%から17.2%に高まっています。しかし、40代以上の層では若干減少傾向を見せています。なお、2019年の全世代の平均値は23.9%です。

30歳未満と30代で2014年と2019年の間で大きな変化が出ていますが、この間には2014年のNISA導入、2017年の確定拠出年金・iDeCoの拡充、2018年のつみたてNISAの導入など、積立投資を前提にした非課税制度が導入・拡充されたことの影響が大きかったと思われます。

投資信託保有者の比率は2割強―投資信託協会のアンケート調査

投資信託協会が発表している「投資信託に関するアンケート調査」では、2万人の回答者による分析で、「現在、投資信託を保有している」と回答した人の比率がわかります。最近の保有者比率は2019年22.3%、2020年23.4%、2021年27.9%、2022年26.5%、2023年24.6%でした。若干の変動はありますが、ほぼ2割強で推移していることがわかります。ただ、この5年間で増えているという感じは出ていません。2023年の調査時期は9月13-20日となっていますので、新NISAの影響もまだ含まれていません。

2024年の投信保有者比率は18%―野村アセットの投資信託意識調査

新NISAの影響が出ていると思われるのが、野村アセットマネジメント株式会社資産運用研究所が実施している「投資信託に関する意識調査」です。2024年調査は2月28日-3月4日に行われており、2024年の数値には新NISA導入の影響が出ていると推計されます。その2024年の投資信託保有者比率(回収数25764人)は18.0%と前回調査の2022年12.3%から大幅に上昇し、2008年から継続している調査のなかで最も高い水準になりました。

ちなみに、年代別でみると、20‐40代でその増加が顕著になっています。NISAの恒久化・無期限化に伴って、若年層で投資に対する姿勢が大きく変化したことが背景にあることは間違いなさそうです。

NISA口座保有者比率は2割弱―金融庁

金融庁が公表したNISA利用状況でも推計ができます。2023年12月現在(速報値)でNISA口座開設数は一般NISAが1162万口座弱、つみたてNISAが974万口座で、合計2136万口座となりました。NISA口座は一般とつみたての併用を認めていませんから、合計が非課税口座利用者数となります。NISAを利用しない投資家もいるとは思いますが、かなり投資家の実数に近いのではないでしょうか。2022年の18歳以上の人口1億721万人を分母として計算すると、NISA口座保有者比率は19.9%となります。もちろん稼働していない口座も含めての数字となります。

政府は新NISA導入にあたって、その口座数を5年で3400万口座に拡大させるとしていますから、対象人口の3分の1が口座を開設を機としていることになります。

米国55%vs日本20%

アンケート調査などのデータをもとに推計してみると、日本の投資家数は対象人口の2割程度という数字に集約されそうです。18歳以上の総人口1億人として、2000万人といったところでしょうか。

ところで、米国はどれくらいでしょうか。詳しく分析したことはありませんが、よく知られている数字はInvestment Company Instituteが毎年公表しているFact Bookに収載されている数値です。Investment Company Fact Book 2023によると、米国の投資信託の保有者数は7170万人に達し、家計の55%が投資信託を保有しているとのこと。これを年代別にみると、18-25歳(Z世代)が36%、26-41歳(ミレニアル世代)が47%、42-57歳(X世代)が55%、58-76歳(ベビーブーマー世代)が56%、77歳以上が57%です。

家計の55%が投資信託を保有する米国に対して、日本は20%前後ですから、この差を伸びしろとみて、今後の投資家層の拡大が進んでいくことを願っています。