私の心情(322)―取り崩しインタビューKさん:「1日1万円の生活費」に立ち向かう
退職後の不安は「生活費」よりも「最後にかかる費用」かもしれない
ご自宅近くの喫茶店でお話を伺った64歳のKさんからは、「これからの厳しい生活」に関する認識が伝わってきました。
98歳のお父様は直前まで元気だったのですが、昨年、急に体調を崩され入院し、そして介護施設で1か月ほど暮らした後、亡くなりました。その施設の費用が「1日1万円、365日で365万円、10年続くと3650万円、20年で7300万円」。98歳にもなっていたので初期費用が掛からない施設を選択したのですが、「こうして計算してみると、あまりの多さに愕然とした」といいます。
それを感じて、「今の資産では心もとない、何とかしなければ」との思いが募っています。現在、4000万円台前半の金融資産がありますが、「結局、いくら資産があっても心配は尽きないのだろう」と思って、揺れ動いているようです。
現役時代はかなり稼いで一戸建てのローンも完済。しかし、
Kさんは64歳で、奥様は60歳。金融機関の営業職として全国を転勤するハードな生活を送ってきました。収入もボーナスも「相当良かった」といいます。20年前に現在のご自宅を6500万円で購入したときも、頭金2000万円を用意できる状況でした。しかも4500万円の住宅ローンも10年もせずに完済しています。
しかしハードな生活だったこともあって、役職定年となったあたりから体調に変化が現れます。53歳でうつ病の症状が現れ、その後、半年単位で療養、出社を繰り返し、結局58歳で完全退職となってしまいました。それから仕事はまったくしていないそうです。
厄年となった昨年
Kさんは奥様と2人のお子様と一緒に暮らしています。60歳になられた奥様も食事制限のある病気を患い、今は働いていません。30代半ばの長男は仕事に就かず家に居候を決め込んでいますが、長女は契約社員ながら働いています。
Kさんは昨年から今年にかけて、病気で5回の入院をしました。これで高額療養費の制度に詳しくなったといいますが、体調的には昨年は「厄年といっていい」と振り返ります。
収入は年間200万円、支出もそこまでに抑える
現在の収入は、特別支給の年金と確定拠出年金の受取額だけ。確定拠出年金は総額1000万円くらいで、61歳から5年間の年金受け取りとしてあり、年間200万円ほどの収入になります。
「加給年金もあることから老齢厚生年金は65歳から受け取り、老齢基礎年金は1年遅らせて66歳から受け取る計画だ」とされています。なぜ1年遅らせるのかといえば、確定拠出年金が66歳まで受け取れることで、少しでも課税所得を抑えようという配慮からです。
ちなみに65歳からは公的年金は250万円くらいになる見込みですが、税金も増えることから手取りはあまり増えないだろうと想定し、「支出は今も、そしてこれからも年間200万円に抑える」と決めています。また奥様も5年後には80万円ほどの公的年金を受け取れるはずだとみています。
これからの生活では、「それほど何かをやる、新しいことにチャレンジするといった気持ちはない。面倒くさいでしょ」と話します。また車を持っているので、夫婦で出かけることもありますが、奥様の食事制限があり、1泊旅行というわけにはいかないようです。「これまでと変わらない生活を続けるだけです」
資産は土地も合わせると1億円を超えるものの
現状の資産をみると、「自宅は6000万円くらいになっているのではないか」。売りに出ている隣家を参考にしているとのことで、「ずいぶん上がってきた」と感じています。住宅ローンも完済していますから、理屈の上ではこの売値がそのまま資産額になります。
一方、金融資産は預金が7~800万円、債券が2000万円、株式が1500万円で、合計4000万円を少し上回るくらいです。自身の中核資産は債券だと考えていて、半分は個人向け国債に、もう半分は社債に投資しています。
株式は現在10銘柄ほどを保有していますが、「ポートフォリオを配当重視にシフトさせよう」と考えていて、現在入れ替えを進めているところです。目標は配当利回り5%くらいですが、現状は3%程度。NISAも使っていますが、つみたて投資枠だけを使って「80歳までに1800万円にする」計画を立てているとのこと。
ちなみに配当は自身の小遣いにして、友人との飲み会や病気の治療費に消えていくそうです。なぜ、病気の治療費が小遣いから出さなければならないのか不思議な気がしましたが、「入院など大きな費用は家計から、その後の通院などは小遣いからとなっている」ようです。
1500万円はないものとして
普段の生活の様子を伺うと、「家にいることが多い」とのこと。脊椎の病気から最近は歩くことに不自由していて、「最近やっと駅まで歩けるようになったところです」とのことで、今回の近所のインタビューも自宅と駅の間にある喫茶店でした。
だからというわけではないようですが、「午前中は相場をみることでほとんどの時間を使っている」のが実情とのことです。「それとオンラインで記事をチェック」して、ほぼ一日が終わるような生活です。
実はKさんは根っからの株式相場好きで、前述のように現物は配当重視ながら、売買は主に信用取引で行っています。昨年は数百万円の大損を被ったとのことで、その点でも「厄年だった」と考えています。「今年はまじめに投資をしよう」と意気込みを話されていますが、「株式の1500万円は万一損失で消えても、最初から無かったものと考える」といわれると、少し不安になります。「株式投資は好きだ」というのは本当にそうなんだと思われます。
「2000万円問題」で債券2000万円を用意
「株式の1500万円は万一損失で消えても、最初から無かったもの」と考えているのは、例の「2000万円問題」の時に、「債券で2000万円を用意する」と決めて、それが実現できていることが背景にあります。さらに、「昨年亡くなったお父様の相続資産が1000万円くらい見込めます」とも期待しています。
これからの心配事
心配なのは健康のこと。夫婦ともに親が長生きだったこともあって、まだ長い残りの人生で、介護などの懸念が大きいようです。しかも昨年亡くなったお父様の介護施設の費用が、「1日当たり1万円」と試算されていて、「これで20年を計算すると7300万円になる」と気になってしまうのです。
子どもが十分に自立できていないとの心配もあります。「住宅は子どもたちのために現金化はできない」と考え、「残りの金融資産で夫婦の今後のことをカバーできるようにしたい」と考えています。その視点から、父母合わせて2000万円くらいを想定している「親からの相続資産を当てにしている」と本音も出ました。
資産の取り崩しについては、いくつかのルールを想定されています。まずは、配当重視の投資と信用取引の両立は当面続けるものの、「年齢に比例してリスク性資産の比率を下げるものだと思う」ので、「70歳になったら徐々に株の比率を下げる」ことにすると決めています。ただ、70歳前に資金が必要になるなら、「債券から取り崩すことになるかもしれない」とも考えています。株式に対する「好き」がそうさせているのかもしれません。
インタビューを終えて
Kさんが最も心配されていたことは、やはり自身と奥様の介護の費用でした。何度も言及された、老人ホームでの生活で「1日1万円」のコストがかかった話は、「退職後はお金がいくらあっても心配は尽きない」との思いにつながります。
といっても、手元にある4000万円強と相続資産2000万円をふやすことは簡単ではありません。日々の生活での取り崩しで費消しないようにすること、信用取引で大きな損失を避けること、万一の時には何から、どうやって取り崩すかを計画しておくことが重要だと思います。不安の正体は、金額の不足ではなく、見通しが立てられないことなのかもしれません。取り崩しに関する計画を立てることの重要性を改めて感じます。

