私の心情(294)―取り崩しインタビューPさん:父親のアドバイスがあったればこそ

なぜインタビューを受けていただけたのかを伺ったところ、「これまでもFPとか金融機関の人とかと、お金の話をすることで刺激を受けたことがあるので、商品の推奨もないことだし良いかな」と思ったとのことでした。ちょっと緊張してスタートです。

資産運用は父親の教え

「20代から資産運用を始めていました」という東京在住のPさんは、64歳。資産運用を始めたのは、お父さまの影響とのこと。「まだ早いから差し当たりお前は投信からやっておけ」と言われて、お父さまが教えてくれた銘柄から投資をスタート。その後もお父さまの指示のもと、スポットで買い続け、40代にはなんと1億7000万円くらいにまで資産が拡大していたとのこと。素晴らしいお父様です。

運用資産で一戸建てを購入

2003年、44歳の時に、その資産から6500万円を拠出して一括で一戸建てを購入。一時的に金融資産は減少しましたが、その後の20年弱の運用で資産は1億2000万円くらいにまで増えて、退職を迎えます。ここに退職金約2500万円が上乗せされ、今、金融資産は1億4500万円と言ったところに。

ところで退職金は約2500万円を一括で受け取ったとのことですが、実はいわゆる前払い制度もあって、退職金の一部を給与に上乗せして受け取っていたことから、その分だけでも500‐1000万円くらいにはなっていたようです。合わせると3000万円以上ということになりますから、この面でも資産形成に大きな力になっていたはずです。

対面の証券会社とオンライン証券会社それぞれ2社ずつに口座を開けていますが、運用では毎月末に棚卸をしてポートフォリオの分散状況をチェックするようにしているとのこと。現在は、退職したこともあり、かなりリスクを引き下げています。内訳は預金9700万円、投信が2900万円、債券1700万円、株200万円で、「預金比率は67%とかなり高くなっています」と自己分析されています。

基礎的支出が分かったことで退職を決意

Pさんは62歳になる奥様と3人のお子様の5人家族。お子様は既に経済的には独立されていますが、1人は同居されています。長らくサービス業関係の会社に勤務され、2年前の62歳の時に退職されています。実は会社の定年は65歳なのですが、「無理をして長く仕事を続ける必要はない」と思うように至り、定年前に退職を決めました。

コロナ禍で厳しい生活を強いられた時代に、わかったことのひとつは「意外に基礎的な生活費は少なくて済む」ということでした。コロナ禍での生活費を計算してみたところ、年間380万円ほどだったとのこと。夫婦の年金を合わせるとちょうど380万円になり、「これなら年金だけで基礎的な生活費はカバーできる」と分かりました。これがコロナ禍明けに仕事を辞める決断につながります。ちなみに、Pさんは今年64歳で年金の特別支給を受け取り、65歳から正規の年金を受け取る予定です。

「今、仕事は一切していません」。職安には行って失業保険も受け取ったりしましたが、今は仕事という面では完全に無収入です。

旅行が大好きで「今は生活を楽しんでいる」

「60代は楽しみたいんです」とおっしゃる通り、40代から始めた海外旅行を中心に、今の生活は充実しています。「先月は25年ぶりのイギリスに1週間ほど行ってきました」とのことでしたが、「フランスはもう10回は行っていますし、ドイツ、イタリア、アメリカなども行きます」と、海外旅行は年に2回ほどのペースで、「合計300‐400万円ほどかけて」楽しんでいらっしゃいます。また国内旅行にも毎月のように出かけています。

旅行は特に「計画を立てることが大好き」とのことで、旅行に行くたびに次の行き先をいくつも思いつき、その計画を立てるといったことを繰り返していらっしゃいます。例えば、第2次世界大戦時にイギリスに逃れたユダヤ人の軌跡をたどる旅とかを自身で計画されます。結果、「もう50年分の計画が出来上がっている」とおっしゃるほど。もちろん国内旅行にもこだわりがあって、特に「宿」を重視して計画を立てているとのこと。「伊豆ならこの旅館がいい」といったお話まで聞かせていただきました。

もうひとつこだわっているのが、旅行先では歩くことだそうです。海外でも、1日20‐30キロは歩くのが普通だそうで、「歩くことでその地元のことがよくわかる、それが楽しいんですよ」と。そのために普段でも毎日、10キロほど歩くレーニングをしているようです。

資産の取り崩しは5年刻みの計画

取り崩しの計画もしっかりできているようです。ご自身では「取り崩しのルールはその都度考えることにしている」とおっしゃいますが、資金の引き出し額は5年刻みで計画を立てているとのこと。具体的には、70歳まで年間400万円で合計2000万円、75歳までは年間300万円で、合計1500万円、80歳までは年間200万円で合計1000万円を想定し、15年間で4500万円を楽しみのために使っていこうとされています。

それぞれの資金の源泉は、差し当たり投資信託の儲けを充当することにしているものの、そろそろ預金の取り崩しも考えなければと思っているとのことでした。

終の棲家はまだ早いが念頭にはある

80歳以降の課題や方針についてもお話を伺いました。まずは介護関係ですが、ご両親の有料老人ホームやグループホームのことで苦労をされ経験値は高いとのことで、「準備はまだだが、しっかり念頭に置いている」とのことです。

そのためというわけではないのですが、別荘を持つといった「一か所に縛られること」ことに関心はなく、「自宅も子どもさんに残すのかどうか決めていない」とのことでした。相続よりもできるだけ自分たちで使ってしまいたい思いは強いようで、奥様とも相談して相続対策などは子どもたちに伝えないようにしているそうです。3人のお子さんは皆さん30歳前後で独身で、まだまだいろいろ必要資金がかかりそうですから、相続よりもその方を優先することになるでしょう。

インタビューを終えて

インタビューの時も思ったのですが、文章にまとめてみると一段とPさんの退職後の生活は充実していることが分かります。海外旅行、国内旅行を楽しむ方は多いでしょうし、60代前半で退職する人もいらっしゃると思いますが、充実した生活を支える資金とその計画がはっきりしているのが素晴らしいと感じました。

特に5年刻みの資金計画を立てていらっしゃることは、これまでのインタビューでは初めてことでした。これは私も推奨していて、その実効性を示してくださっているようでちょっとうれしくなりました。

ところで正直なところ、そうした計画を立てられるのもしっかり作り上げてきた資産があったればこそだと思います。そして、その礎を築いたのがお父様であったことは本当に大切なことではないでしょうか。

やり方は人それぞれですが、やはり資産形成といった時間をかけて行う行動は、そのきっかけを作るのも、その過程を見守るのも家族の力ではないかと改めて思いました。