私の心情(299)―取り崩しインタビューRさん:分配金、必要ないのに

広島でインタビューをした69歳になる独身女性のRさん。冒頭から住宅ローンの話から毎月分配型投信など金融商品、金融機関への不満を聞くことになりましたが、まずはこれまでの生活を振り返るところからまとめます。

よく考えると2拠点生活

Rさんは看護師を39年間勤め上げ、60歳で定年を迎えました。看護師として中国地方の各都市で勤務してきたこともあって、かなりの転勤族といっていいと思います。25年前に「チラシを何度も受け取ったことを何かの縁」と感じ、広島に新築のマンションを購入。しかし、勤務しているうちの15年間は、週末や休みだけに帰る場所として使っていました。Rさんは独身のため、マンションは55㎡と小ぶりですが、立地のいいところにあります。今は買値の2700万円を上回る価格になっているようだとおっしゃいます。

最初、その話を伺ったときは賃貸に出していたのだろうと思っていたのですが、よく考えると新しいタイプの2拠点生活だったといってもいいと思います。結局、定年になった60歳から、その広島のマンションで生活をされていますから、退職後の生活拠点を早めに手当てして、15年かけて移住を実現したようなものです。

定年後に新しいネットワークが作れるのか

通常、定年後に移住をすると新しい拠点に慣れるだろうか、特に人のネットワークの中に入れるだろうかという懸念を持つものです。しかし、Rさんの場合にはほとんどそのハードルはなかったようです。そもそもRさんが転勤を続けてきたことから新しい環境を受け入れる素地があったことに加えて、2拠点生活で毎週のように訪れていたこと、そして小さな集まりにも仲間を作るような柔軟な性格も背景にありそうです。

リハビリも交流の場に

今の楽しみは何かを伺ったところ、ちょっとしたネットワークで楽しい会話をするとのこと。定年になって川柳クラブに入っていらっしゃいますし、膝の具合が悪くなって通っているリハビリもなんだかクラブのように楽しそうです。

また70歳以上でもアルバイトができる派遣会社に登録して、好きな時に好きなアルバイトを選んでやっています。これもお給料を得るというよりも、単純で負荷のかからない仕事ながら知らない分野のことができると楽しそうです。学会の会場のお手伝いとか、選挙の出口調査とか、言われてみると確かに私の周りでも高齢の方が担当されていることがあります。

収支は安定的だがそれだけに理解不足にも

生活費はそれほどかかっていないようです。どれくらいかかっているのかを事前にメモって来ていただいたのですが、合計してもマンションの管理費を含めても月額換算で4万3000円くらいにしかなりません。最大の費用といわれる食費が抜けているからですが、それを足しても、Rさん曰く「月額10万円前後にとどまりそう」です。

一方で収入は、年金が21.5万円、個人年金が4.5万円、投信の分配金が6.5万円で、合計すると31.5万円になり、収支は黒字になっています。

実はその点をRさんはあまり意識されていらっしゃいませんでした。それでも伺っていると、「確かに預金は増えている」ことは認識されており、現状は収入が支出を上回って生活費口座では残高が増えていることがわかりました。

本当に分配金は必要か

ここで課題を感じました。収入のうちの個人年金は今年の8月で終わり、収入は月額28万円に低下します。本来なら大変になるはずと思ったのですが、「それでも収支は黒字になる」ようです。

詳しく伺ってみると、60歳の定年時から2年間は年金がなく、資産を取り崩してきたのですが、62歳からは特別支給の年金を月12万円ほど受け取ったとのこと。当時から個人年金と投信の分配金が同額であったとすると、その3つの収入の合計は、今の年金受給額21.5万円程度あったはずです。

ということはRさんの場合は、年金だけで生活できる支出水準だと思われます。分配金も今の段階では生活に必要なものではないように思われます。もし、分配金も受け取らない場合には21.5万円の年金収入だけになりますが、これでも生活は成り立っていくように感じました。

15年の投資歴だが

そこで分配金に対する考えを伺ったところ、想定とは違っていろいろご不満が出てきました。まずは金融資産の現状をまとめておきます。毎月分配型を中心に投資信託が1000万円、外債が1500万円、国債が800万円、株式が450万円、定期預金が700万円、そして生活費口座になっている普通預金が200万円で、合計4650万円です。

最初に投資を始めたのが2008年とのことですから、もう15年以上の投資歴となります。当時住宅ローンの金利が2.1%くらいで、それを固定金利に変更しました。それに伴って返済額が月に5‐6万円になったものの、ボーナスでの返済がなくなったことから、その分で投資を始める気持ちになったようです。

分配金で元本が減るなんて、と金融機関への不満が大きい

本格的に投資を始めたのが定年になった2016年。口座は地元の金融機関に開設したこともあって投資信託、なかでも毎月分配型投信が中心でした。ただ、退職金2000万円のうち1500万円をつぎ込んだのが、豪ドル債。「豪ドル建てで高い金利が付くといわれたが、その後の豪ドル安で収益は全く出ていない」と強い不満を持たれています。

退職時に一時払いのドル建て年金にも投資をしました。当時1ドル=130円くらいで、5年経過した65歳から年金を受け取り始めたのですが、そこから2年経った2023年、67歳の時に銀行から乗り換えを勧められ、国内RIETに。しかしその後の円安を考えると、「これは銀行が都合のいいように乗り換えさせただけではないか」と不信感を募らせています。

その後、セミナーで知ったIFAにアドバイスを求めるようになったのですが、そのIFAも当地のオフィスを閉鎖して撤退してしまい、「東京からサービスを提供するといっているけど、どうだろう」とここでも懸念を強めています。

さらに毎月分配型投信の分配金に関しても本当に気になっていらっしゃいました。「分配金を出すと元本が減るんですね」、「それを金融機関は教えてくれなかった」と不満を持たれていて、「金融機関は親身になって退職金の運用のフォローをしてほしい」とも苦言を呈されました。

まだ決められない最晩年の姿

69歳という年齢もあって、今後のことに関する心配も多いように感じました。腰や膝の損傷など、健康面で気になるところがあるようですが、趣味を旅行などからインドア系に変えたことで、生活そのものの楽しさは全く失われていません。

ただ、その先の、例えば認知症や介護に関しては心配しないわけではありません。ただ、そうした人生の最晩年の自身の姿をまだ想像できていないようにも感じました。独身でもあることから、もしかすればどこか達観されているのかもしれませんが、「最後は有料老人ホームだろうか」と。

インタビューを終えて

Rさんとのインタビューを通じて、金融機関の業務がまだまだ顧客本位になっていないことを強く感じました。豪ドル債にしても、一時払いドル建て年金にしても、さらに毎月分配型投信にしても、運用の結果よりもRさんは金融機関の不十分な説明に不信感を持っているように感じました。

その結果、「もう定期預金に切り替えようと思っている」とのこと。ただ、金融資産全体としてはリスク性資産の比率が高いように感じましたので、そろそろ運用資産から預金などへのシフトを通じてリスク性資産比率を引き下げてもいい時期ではないでしょうか。これまで毎月の収支がうまくコントロールできていたことから、資産の内訳を気にしないで済んでいたのだと思います。個人年金の給付が終わることを機に、資産構成を見直すいいタイミングにあるように思います。

また分配金は資産を取り崩す手段のひとつだと思いますが、Rさんのように年金の範囲内で生活ができている方は無理に分配金を受け取らない資産運用を考えるべきだと思います。にもかかわらず分配金の受け取りが必要だと感じるのは、分配金を預金の利息のように考えているからではないでしょうか。資産の取り崩しという考え方が普及することの必要性を痛感しました。

さらにRさんのように独身で、住宅も含めれば8000万円以上を資産として保有する高齢者はそれなりにいらっしゃると思います。生活は年金の範囲内でできるとなれば、この資産は結局のところ、高齢者住宅への住み替えに使われるか、残ってしまうことになりかねません。改めて資産の取り崩しとそれをいかに消費に結びつけていくかの課題の大きさと難しさを痛感しました。