私の心情(306)―取り崩しインタビューDさん:有価証券比率の高さをどう考えるか
持ち家は母親と共有
都内にお住まいのDさんは67歳で、60歳の奥様と社会人2年目の娘さんの3人で生活しています。2人の息子さんは既に社会人で独立して家を出ています。
Dさんご一家は、もともと関東の他県に住み、そのころご両親は都内で中古の2世帯住宅を購入してお住まいでした。17年前にお父様が亡くなられた後は、お母さまが1人暮らしを続けていましたが、2018年に骨折して3か月入院とリハビリが必要になったときは、Dさんが毎週末にお母さまの世話をするために、都内の勤務先から実家に通って1泊する生活を続けていました。
その後、娘さんが、高校進学にあたって行きたい学校に近いということで都内のご両親の自宅での同居に前向きになり、家族そろって引っ越すことになりました。現在、持ち家の名義は、お父様の持ち分をDさんが相続され、お母さまとDさんの共同名義になっています。
母親は近くの老人ホーム
さらにそこから6年経って、お母さまが心臓病で老人ホームへの転居を余儀なくされました。ただ、ご自宅から歩いて5分と近いところへの転居になったことで、会いに行くのは楽なようです。
お母さまの老人ホームは保証金が50万円と入居時の一時金としてはそれほど高くなく、月額の費用20万円強で、年金と少しの負担でカバーできています。
働くといっても自由な時間が大切
Dさんは、現役時代、大手の金融機関にお勤めでしたが2年前に退職。その後は、シルバー人材センターの仕事に週3日出かけています。「この仕事はちょうどいいペースでやれています」と、楽しみながらできる仕事が気に入ってらっしゃるようすです。シルバー人材センターの仕事は、われわれもよくお世話になっている駅近くの駐輪を監視する仕事で、1日4時間、6人でシフトを回しているそうです。毎年4月に1年間のシフトが決まるので、スケジュールのコントロールがしやすいことが何よりいいところだとのこと。
週末にシフトが入ることもあり就業日は不定期ですが、ウィークデーにまとまって休める仕事が希望だったので、うってつけのスタイルです。ウィークデーの連続した休務日が3日以上続くと、3か月に1回程度ですが、車で一人旅に出かけたりしています。娘のいる親子の家庭では“あるある”のようですが、奥様は娘さんと行動を共にして買い物やコンサートなどに出かけるようで、その点、Dさんの単独行動は認められていて、Dさん自身も「気楽でいい」とおっしゃっていました。
マンションの賃料収入もあり、年収650万円
現在の収入は公的年金が月額30万円、シルバー人材センターでの収入が月5万円、これにマンションの賃貸収入が月13万円あります。さらに個人年金の受け取りが65‐75歳の10年間、毎年70万円あります。その他細かいものを合わせると、ほぼ年間で640万円くらいの収入となっています。
ちなみに他県にあるマンションは1992年に5500万円で購入しましたが、現在の時価は1200万円ほどに下落しています。住宅ローンは完済していますので、少額でも賃貸収入があるのは、現在、助かっているとのことです。
生活費は妻が、資産は自分が管理
一方、生活費は全部込みで月額50万円、年間にすると600万円程度ですが、そのほかに賃貸に出しているマンションの管理費や固定資産税などもあり、収支は若干のマイナスになります。
ところで生活費としての支出は奥様が管理されていて、毎月10日ごとに必要金額がDさんに示されるそうです。年金やその他の収入はすべてDさんの口座に振り込まれるようになっていて、そこから必要に応じて資金を奥様に渡すというルールが出来上がっています。これは退職後のスタイルだそうですが、そのためDさん自身は支出の内訳があまりわかっていらっしゃらず、ざっくりと「全部込みで月額50万円」といった表現になっています。なお、現役時代は、給与のほとんどを生活費口座に振り込み、奥様が管理されていたそうですが、足りないときはDさんが奥様に渡すルールだったようで、貯蓄などはすべてDさんが担っていたそうです。
有価証券比率の高さ
2年前の退職時に、退職金が1500万円ほどありました。そのうち1000万円をファンドラップで運用して、残りは預金のままでおいておきました。ファンドラップの資産は現在1160万円になっています。そのほか、確定拠出年金の口座に資産が500万円ほどあり、現役時代の勤務先の自社株、その他が900万円、投資信託がNISA口座に100万円ほど、さらに課税口座に母親から生前贈与を受けた300万円の投資信託があります。
現状、運用は順調で金融資産は総額で3460万円になっています。そのうち預金は500万円ですから、金融資産に占める有価証券の比率は86%になります。
有価証券比率は高そうで気になったのですが、4月のトランプショックの時には「それほどアタフタしませんでした」とのこと。確かに資産残高は減少しましたが、購入したときに比べれば利益が出ています。それにいずれ上がるだろうという読みもあって、500万円の預金のなかから、さらに30万円ほど追加投資したほどです。
家のリフォームが気になるが、まだ資産を取り崩す時期ではない
Dさんに今後の生活などの話も伺いました。何か特に始めようと思っていることはなさそうですが、大きな支出として自宅のリフォームは検討したいようです。家の外壁などの修繕は5年前に母親が行っているので、そろそろ自分たち夫婦は1階に移り、2階は娘だけの部屋にしようかと考えているそうです。住宅メーカーからは1000万円程度の見積もりを得ているようですが、母親もまだ健在なうえ、結構な金額でもあり、まだ検討段階といったところのようです。
次の区切りは、5年後に奥様が65歳になって公的年金を受け取れるようになる時点でしょう。その時にDさんはシルバー人材センターの仕事もやめてもいいかなと思っているようですが、「自分よりもずっと年齢の上の人が同じ仲間として元気に働いているのでなんだか辞めにくい」気持ちもあるようです。続けようかと気にかかっているところです。
このように毎年若干の取り崩しが必要ですが、「それほど心配していない」とのことです。
インタビューを終えて
気になったのは、有価証券比率の高さと、取り崩しの計画がまだ見えていない点です。有価証券比率が86%で、これが高いかどうかというよりも、預金が500万円くらいで大丈夫かという視点が大切だと思っています。有価証券比率は、預金比率の逆だと思えば、預金の水準が現在の生活で起こりうる懸念をしっかりカバーできるかどうかがポイントです。
その点、当面は収入が600万円以上あり、娘さんも働いていることから、それほど大きな懸案はなさそうです。ひとつ上げるとすれば、シルバー人材センターでの収入がなくなり、75歳で個人年金の受け取り(年間70万円)がなくなった後のことでしょう。3460万円の金融資産で、どれくらいの年数をカバーできるかになります。

