私の心情(288)―取り崩しインタビューEさん:サ高住が変えた取り崩しの考え方
サ高住に移り住む計画
取材に応じてくださったEさんは、この一年で取り崩しに関する考え方を大きく変えました。そのきっかけは、サ高住に住むと決めたことです。
それまでは「企業年金がなくなる70歳以降、その不足する月額20万円の収入をどうするか」、これが資産活用の当面の課題だと考えていました。しかし、偶然見つけたサービス付き高齢者住宅、いわゆるサ高住の広告がきっかけで1年ほどかけて調べ、伊豆方面のサ高住に即決。一時金を払い込みました。
夫婦二人だけ
横浜にお住いのEさんは67歳。65歳の奥様と2人で、奥様の実家にお暮しです。お子様はいらっしゃいません。Eさんのご両親はすでに他界され、奥様のお父様も36年前に亡くなられています。お母さまも10年以上、特別養護老人ホームにおられ、3年前に亡くなられました。
Eさんは現役時代、大手上場会社に勤務され60歳で定年。2年間だけ再雇用契約で働いていましたが、5年前に完全に退職。その後は全く働いていません。奥様も大学の非常勤講師をされていて、5年前60歳で定年。その後は2人とも年金での生活に完全に変わられています。
収入は公的年金と企業年金のみ
現在の年収は、公的年金が月額に換算して23万円、これに60‐70歳までの10年間企業年金を月額20万円受け取っていることから、年収は500万円を超える程度になります。もちろん税金や社会保険料を引かれると450万円くらいになるでしょうか。
以前から、特に外食によく出かけるというわけでもなく、贅沢な生活をするわけでもなかったので、「退職したからといって生活のレベルを下げることは特に考えておらず、公的年金を中心にした生活に特に不自由はない」とのことでした。お子さんがいらっしゃらないこと、面倒をみなければいけない親御さんもいないこと、そして持ち家であることは、生活費の面でも、また時間の面でもかなり負担が少ないのが実情です。
ちなみにフィンウェル研究所が行った「60代6000人の声」アンケートの分析では、60代の満足度に大きく影響している要素のひとつが家族構成です。夫婦2人だけの生活で、同居する親も子どももいない生活が最も満足度が高く、さらに持ち家のある生活が満足度を高めていることが分かっています。
働くことでしっかりと資産を作ってきた
Eさんは資産形成にしっかりと取り組んできました。独身時代は独身寮や実家で暮らし、残業の多いシステム関係の業務についていたこともあり、お金を使う場も使う時間も多くありませんでした。その分かなり貯蓄ができたということです。34歳で結婚をされているのですが、子どもさんがいらっしゃらなかったこともあり、教育費は全くかかりません。その分も貯蓄に上乗せできたのでしょう。ただその資産の運用そのものは、自身が忙しいこともあって、当時から株の運用をしていたお父様に任せていたそうです。
金融資産は2億円を超える
資産運用に関するキャリアは20年ほどになります。実際に自分で投資をはじめたのは、お父様が亡くなった後、2007年です。遺産の5000万円と自身の資産2500万円を原資に運用をスタートさせたのですが、すぐにリーマンショックの洗礼を受け、資産は一気に5000万円くらいに減少してしましました。しかし、教育費や住宅ローンがないことなどが強みになり、それほど慌てることはなかったようです。その結果、アベノミクスの恩恵もあって、1億円以上の時価に戻っていました。
これに定年となった時点で、持株会による自社株2600万円分、退職一時金が1800万円ありましたから、金融資産総額は1億5000万円弱になっていました。
定年後も運用は続けていますが、主に投資一任を活用しています。預金と退職金を合わせて2000万円分をオンラインでの一任運用に回し、2年ほどで3800万円に増えていました。また大手証券会社のラップ口座でも運用をしており、それらを合計すると今は総額で2億円を超える資産になりました。
このほかに伊豆と信州に別荘があり、シーズンごとに行き来するような2拠点生活を送っていらっしゃいます。ご夫婦ともにテニスを趣味にされているので、きっとご夫婦でテニスをされていることでしょう。ちなみに、ご自宅は50年前に作られた借地権付きの住宅で「現状の資産価値はほとんどない」と考えています。
サ高住に移ることを決める
ところで、1年ほど前に偶然見つけたサ高住の広告でちょっと興味を引く物件があり、一気に「将来はサ高住に移る」という方向に転換をします。実はEさんのお父様もサ高住で最後の生活を送っていましたから、Eさん自身はサ高住に対する心理的なハードルは低かったようです。そこからたくさんの物件を確認したそうです。ただどの物件も「60代から使おうとすると一時金が1億円を超えるものがほとんどで、なかなか手を出せなかった」とのことです。
そうしたなかやっと見つけたのが伊豆にあるサ高住でした。インタビューをさせていただいたときは既に一時金(4000万円台)を払い込んでいらっしゃいました。もちろんサ高住にすぐ移り住むのはなく、まずはサ高住の「リゾート利用」として別荘のように使うことから始めます。Eさんが入居者となり、5年間は奥様もゲストとして宿泊・利用できる制度を使います。当面はリゾートマンションのような使い勝手になりますから、現在保有している伊豆の別荘は年内に売却する予定です。
その後、時期を見て夫婦でここに常駐するスタイルに変える予定です。
年金以外に月額40‐50万円は必要?
もともとEさんは「あと数年で70歳になり、企業年金の受け取りが無くなることから、それに備える必要がある」と考えていました。企業年金の受取額は20万円ですから、この代わりになる資産収入ということで、具体的には毎月分配型投信を活用する予定でしたが、サ高住に住むことを決めたことで、もっと月額の資産収入が必要になりました。
このサ高住はリゾート利用のうちは、一時金の他に月額13万円の費用が必要で、常駐になると1人月額20万円、夫婦での常駐となると35万円以上に引き上がるとのこと。もちろん、そのほかに各種のアクティビティやプラスアルファの生活費が必要になりますから、毎月50万円以上かかることにもなりかねません。
さらにこのサ高住は介護が必要になれば、専用棟で介護も受けられるようになっています。Eさんは「それもここに決めた理由のひとつ」とおっしゃっていますが、その段階ではさらに一時金がかかり、毎月の生活費も高くなるでしょう。
とても年金だけでは足りませんし、月20万円分の企業年金の代わりになる代替収入でも十分ではありません。
毎月分配型投信を止めて、外貨建て終身保険に
そこで決めたのが「毎月分配型投信ではなく、ドル建ての終身保険を活用すること」でした。1年ほど前に一時払いのドル建て個人年金保険を40万ドルで購入。その後にサ高住を決めたことで10万ドルを追加して、総額50万ドルを契約しています。計画では、この個人年金で71歳以降、為替レートが1ドル=150円なら月額50万円の年金支給を終身で受けられます。
また家族信託の検討もしていたのですが、こちらもドル建ての一時払い介護保険に切り替えました。3年目以降に要介護2以上の認定を受けると、その時点で奥様を指定代理人として、19万ドルを一時金で受け取ることができます。これで介護専用棟への移転やその後の費用を賄えると計算しています。
ちなみにサ高住の入居一時金を支払っても、現在の金融資産はドル建ての資産60万ドル(1ドル=145円換算で8700万円)とラップ口座にある有価証券、それに預金が少しで今の残高は2億円を少し超えます。さらに奥様も投資信託で2000万円ほど運用しているほかに、同じく10万ドルの外貨建て個人年金を持っています。
死ぬまでに使い切らなかったら寄付かな
世間では毎月分配型投信に関して「タコ足」批判があるけれど、それは現役層のこと。自分たち退職世代には「タコ足配当、上等だ」と考えています。また夫婦2人だけの生活で、資産を残す親族もいないので、「死ぬときに資産を多く残すなんてまったく考えない」とも断言されます。すでに自身の資産は奥様に残すことを遺言状に書いているとのことですが、サ高住に常駐することになったらまた書き直そうと思っているとのこと。
「最後に資産が残ったら寄付したい」。これが最後に伺ったコメントです。
インタビューを終えて
資産を残さないで使い切りたいという思いを具体化しようとするEさんのお話は、資産活用の具体例として非常に参考になりました。資産の作り方、取り崩し方は典型的といってもいいように思います。さらに私が提唱している資産活用という考え方の根っこには、高齢者の消費の重要性があります。人口減少社会で高齢者の比率が高まるこれからの日本では、その高齢者がいかに消費に貢献できるかが重要になってきます。そこにも前向きに取り組もうとされているEさんのお話は、参考になりました。
また最近話題になっている毎月分配型投信に対する批判も、それは現役層にとっての問題点で、高齢者の取り崩しには「タコ足、上等だ」と分析されていることにも共感を覚えます。
課題は、この先の認知・判断能力の低下をどう乗り越えるか、奥様がおひとりになられた後をどうするか、だと思います。ご自身の認知・判断能力の低下に関しては、資金面での対応はできているように思いますが、奥様が運用を引き継いでいけるかどうか、自動的に振り込まれるEさん名義の銀行口座に奥様がアクセスできるかどうか、など準備をしっかりしておく必要があります。
さらに奥様がおひとりになられた後、特に認知・判断能力が低下してきたときに、どういった対応ができるかも想定しておくことが必要になります。まだ時間はありますが、Eさんであれば、その時に向けての準備は今からでも進められるのではないでしょうか。