私の心情(292)―新NISA、高齢層の利用は先細りに

60代の資産の取り崩しインタビューを続けていますが、これまでに会ったほとんどの方がNISAにそれほど興味がありませんでした。使っていないというわけではありませんが、投資の中核が課税口座になっていることから相対的に関心が薄いのかもしれません。もともと以前から投資をしてきた人にとって、NISAは途中から始まった制度ですし、当初は年間非課税上限額が100万円で5年間の非課税期間に限定されていたことなど、使い勝手が悪かったことも影響しているようです。

そこで高齢者が新NISAをどう使っているのかを、6月17日に金融庁から発表された「NISA口座の利用状況(令和6年12月末時点確報値)」から分析してみようと思います。といっても、今回できたところはまだ一部分だけですが。

新NISA、ネットの買い越し額は10兆円規模に

まず新NISA利用の全体像です。NISA全体(旧NISAと新NISAの合計)の残高は23年末の18.4兆円弱から34.4兆円弱へと16兆円ほど増加しています。その要因を、ウォーターフォール・チャートで見たのが下の図です。

増加の要因は年間の買付額17.4兆円弱、減少要因は旧NISAの売却額(課税口座への払い出しも含めて)4.5兆円強、新NISAでの売却額2.3兆円強、受取配当額1200億円で合計10.3兆円強となります。なお23年末から24年末までの1年間で残高16兆円ほど増えていますから、10.3兆円強との差額5.7兆円弱は年間の値上がり益と推計されます。

これからも続く4兆円以上の旧NISA売り

23年末の残高18.4兆円弱はすべて旧NISAの残高ですから、23年以降5年間かけて徐々に売却(課税口座への払い戻しも含む)されていきます。そのため今後も平均すると毎年4.5兆円程度の売却が継続的に発生することになります。それがそのまま新NISAの翌年の買付額の原資となる場合もあれば、そのまま課税口座へ払い出されたままになるか、または現金化されることもあります。

ちなみに23年の売却額は4.3兆円弱で、これがすべて24年の買い戻しに使われたとすれば、新NISAの買付額17.4兆円弱からそれを差し引いた13.1兆円強が、新規資金で購入された分となります。23年の買付額5.2兆円強の2倍以上の水準となりました。

旧NISA売却資金が新NISAに移管されることが重要

全体では新NISAの活用が急速に増えていますが、年代別にみると高齢層ほど新NISAの利用が減っているように感じます。このレポートの最後段に、年代別のウォーターフォール・チャートを作成していますのでそれを見ながら、年代別の特徴を確認してください。なお、グラフは各年代ともに同じスケールで作成して規模感を比較しやすくしています。

年代別にみて大きな特徴は、70代以上の年齢層で、大きく利用度合いが低下したことです。逆な見方をすればNISAが一気に資産形成層での活用に大きく変化したことを示しています。その流れの背景にあるのは、旧NISAの売却資金が新NISAにどれだけ還流し、それに新規の資金がどれだけ上乗せされるかにかかっています。

旧NISAは、非課税期間末が来る毎に、売却または課税口座への払い出しが行われます。その売却資金が新NISAでの買付に回らなければ、その分、残高は減少していくことは自明です。すなわち旧NISAから新NISAへの乗り換えが進むことが残高維持にとっては重要な点のひとつになります。

年代が高まるほど旧NISAを含めて売却額が大きくなる

高齢層は一般NISAを中心に活用していましたので、旧NISAの売却額は大きくなります。20代1300億円、30代4500億円、40代6500億円、50代8000億円、60代9500億円、70代が1兆円と年代が高まるごとに大きくなり、80代以上でも5000億円以上の売却額となっています。

ちなみに23年の年代別売却額(この年は旧NISAのみ)も24年の年代別売却額とほぼ同じ水準となっていますので、株価が大きく変動しなければ、今後も25年以降3年間にわたってほぼ同じ売却が見込めます。

買付額は70歳以降急減

一方、買付額は年代別にみると30代から60代までは年間3兆円規模となっています。そのため、売却額を差し引いた年間の純買付額は30代から60代まで2兆円前後の規模がありますが、70代以降は純買付額が70代で7200億円、80代以上は1400億円と大きく減少します。

高齢層の残高はマーケット依存を強める

それによって、NISAの年代別利用は高齢層、特に70代以上で大きく低下することになります。もちろん残高は値上がり益があればその分増えることになりますが、年代別に伸び率をみると、20代から50代までは軒並み2倍以上に増加していますが、60代は79%増、70代は49%増、80代以上は32%増と低下しています。今後も旧NISAの売却が続き、純買付額が伸び悩むと、残高の伸びはマーケット環境次第という色合いが強くなるはずです。