私の心情(301)―取り崩しインタビューQさん:年金、1年なら何とかなるから繰り下げだ
今回は四国まで遠出しました。インタビューを受けていただいたQさんとの会話のなかで最も印象に残ったのは、65歳になって、「1年なら何とかできるので、年金受給を66歳に繰り下げた」との決断でした。
前向きな「独居高齢者」
現在67歳のQさんは、IT系の企業に勤めて40年以上、札幌、東京から福岡まで多くの都市で勤務をしてきました。1985年に結婚をして、3人のお子様の父親となりましたが、25年程経ったころに離婚をして、それ以来、親の実家に住んでいます。
お父様を早くに亡くされ、実家ではお母様との二人暮らしを続けてきましたが、89歳になるお母さまは2年ほど前に脳梗塞による意識障害から今も入院リハビリ中です。そのため、Qさんは現在ひとりで住んでいます。自虐的に「独居高齢者」と自称されていますが、話を伺っている限り、前向きな性格で「独居」という言葉の響きはちょっと似つかわしくありません。
米作りが趣味
現在の職業は「水稲農家です」と答えられていましたが、その一方で「これは趣味の一環です」とも称されています。実はお母様の水田が50aほどあり、そこでコメを作っていらっしゃいます。しかも定年になったときには「母親がやっていた農業をやってみるか」と軽い気持ちで始めたようですが、「意外に面白くなってきた」ようです。
ただ、年間で1500㎏くらいの収穫量にしかならず、ざっくり計算しても実は年間40‐50万円の収入にしかなりません。農機具や掛ける手間を考えると、とても儲かる仕事ではないとのことですが、昨今のコメ価格の急騰で、兄弟や子どもたちからは喜ばれていて、それが励みになっているようです。
当面の収支に問題はない
年間の生活費は稲作ではないところで賄われています。最も大きい収入は年金です。厚生年金、企業年金などでいずれも終身だとのこと。現在、月額25万円、年間で300万円ほどになります。
そのほかに実家の土地の広さもあって、ソーラーパネルを実家の家屋などの屋根に設置して、売電収入も得ています。その額が月額3.5万円ほど、年間にすると42万円。それに保有する有価証券からの配当金と分配金で年間125万円ほど。「ソーラーパネルも投資だ」と考えていらっしゃいますので、投資の成果は合計で年間170万円弱に達します。
合計で500万円弱の年間収入ですが、いずれもほぼ毎年見込めるものですから、現状で支出がこれを下回っていることから、「かなり安心している」と感じていらっしゃいます。
年金受給に対する考え方に魅力がある
ところで年金受給額が意外に多いと感じたことで伺ってみたところ、実は1年受給を繰り下げたとのこと。これが冒頭の一言につながります。
「年金収入がなくても1年くらい生活できそうだ」という感触があれば、それが「わずか1年でも受給開始を繰り下げる」という判断につながるという考え方が非常に大切な気がしました。ご本人はそれほど意識をされていなかったようですが、年金制度に向き合う姿勢がまっとうで、気負いがないように感じました。
有価証券は当面売るつもりはない
投資歴は36年にもなる大ベテランです。大手対面型証券2社に口座を開け、主に個別株の投資を行っていますが、ご本人曰く、「投資のポリシーは楽しみながら続けることで、当面、大きく売却するつもりはない」、「資産運用は死ぬまで続けたい」と思っているとのこと。
それを感じさせるエピソードが、ソーラーパネルを設置するときも、保有株を担保にしてローンを組むことで、保有株をできるだけ売却しないようにされたことです。証券担保ローンが効率的な方法かどうかについては詳しくありませんが、保有資産を保持して投資を続けたいという考え方がよく表れていると思います。
保有する株式の中では現役時代の持株会で作り上げた自社株が柱になっているとのこと。それもあって売り切ってしまうことを考えないのかもしれません。
流動性が低い点が気になるところ
保有する有価証券は配当が多いものが中心で、しかもIT系関連の銘柄が多くなっています。それらに投資信託も加えると、有価証券の残高は1億1600万円ほど。これに対して預金は100万円程度と少なく、「預金の比率が低すぎることが課題」だとご本人も承知されていました。
ただ、年間の収支に今のところ不安を感じていないことから、「敢えて預金を増やす必要はない」とも感じているようでした。ちなみに2000万円くらいはあった退職金なども「全額、投資の原資と実家建て替えローンの返済に消えた」とおっしゃっていて、預貯金に残しておくことを全く考えなかったようです。
子どもを呼び寄せたい
少し家庭の事情にも立ち入って伺いました。というのも、われわれ世代の最大の懸念材料である加齢に伴う健康上の問題は無視できないからです。
Qさんには、3人のお子様がいらっしゃり、そのうち長女の方には、高校を卒業したばかりの18歳とまだ高校生のお2人のお子様がいらっしゃいます。ご主人とは離婚されていることから、収入面ではご苦労されているようです。
Qさんは、その長女とその子どもたちを今住んでいる実家に呼び寄せることを計画されています。孫たちの学校の関係が落ち着いた来年を想定しているとのことでしたが、娘さんにとっても現在住んでいるマンションの家賃が大きな負担になっていることは明らかなようで、そのためにも「実家に戻ってこい」と伝えていらっしゃるようです。
健康問題への備え
お子様の生活を支えてあげることは大切なことではありますが、娘さんにしても親の面倒を見ることになるかもしれないという先々のリスクもありますから、第三者の目線では、諸手を挙げて実家に戻るというわけではないように感じます。
実際、Qさんも自身の今後を考えると、娘さんたちが同居してくれることの安心感はかなり大きいはずです。ただ、お母様の現状を伺うと、年金だけで入院の費用は賄えていらっしゃいますから、自身が介護になった時も今の年金収入や資産収入でカバーできるとの思いもあるようです。
インタビューを終えて
タイトルにも入れた通り、今回のインタビューでは、Qさんの年金制度への向き合い方のシンプルさに納得感がありました。「11年半生きないと元が取れない」とか「年金受給額で運用ができる」といった少し運用目線ではなく、シンプルに「生活できるんだったら1年でも繰り下げよう」という発想が改めて大切だと感じました。
また、「有価証券を死ぬまで運用する」と考えることも大切ですが、認知症になると有価証券の口座が凍結されて、資産を売買できないだけでなく、引き出すこともできなくなってしまします。そうなったときにはQさんのような現状では、同居される娘さんたちに過剰な負担をかけかねません。年金などの収入で生活費がカバーされるとしても、緊急に必要な出費も出てきます。
資産の凍結に対する対策としては、一般論として3つ挙げられます。1つ目は、徐々に預金の比率を高めていくこと、2つ目は子どもさんたちに有価証券投資の要領を伝えること、3つ目は認知症になってからもご家族が運用を継続できるような仕組みを活用することです。3つ目の仕組みは、証券会社での口座であれば、会社によって違いがあるものの、予約型代理人サービスとか、家族サポート証券口座といったサービスが整い始めています。
もちろん何よりも自身の健康を管理されることが最も重要であることは間違いありません。