私の心情(311)―第23回デキュ研:デキュムレーションと保険
デキュムレーションでは、資産を取り崩して使うことで「足下の生活の満足度を確保」し、その一方で資産が減ることによる「資産の安心感の低下」を如何に抑えるかが大切になります。そのなかで使う面では終身で給付を受け取れるようにしつつ、残る資産でその後の生活における安心感も一定程度確保するという使い方ができる金融商品として、終身年金の有用性に注目していました。ただ手数料の高さ、説明の不十分さといった販売現場での課題の他に、低金利のなかでの商品組成上の難しさなども指摘されます。
第23回デキュムレーション研究会では、「デキュムレーションと保険」をテーマに議論しました。今回のブログでは、そのまとめを紹介します。
年金商品の歴史:10年周期の商品変遷
1980年代後半、高い利回りを背景に資産形成商品として「一時払い変額保険」が人気を集めました。しかし、銀行が貸付までつけて購入を推奨するなど、レバレッジがかかりすぎるなか、バブル経済の崩壊でそのリスクが一気に顕在化し、商品の人気は一気に離散しました。
その後、2002年の第2次銀行窓販解禁で、円建ての「一時払いの変額年金保険」が売れるようになりましたが、金利低下に伴って「保証」がつけられなくなったことから下火になってしまいました。代わって登場したのが外貨建て定額保険ですが、商品性の問題などを指摘され一時期伸び悩んでいました。最近は円安傾向もあって再び盛り返しているようですが、円建ての「一時払い定額年金」が年金という商品性ではなく、預金より利回りが少し高いという預金代替商品として注目されているようです。
確定年金と終身年金の特徴
デキュムレーションの観点では、年金タイプの金融商品が注目されます。予め決めた期間にわたって一定の金額を受け取る確定年金が多く利用されていますが、生涯にわたって一定の年金を受け取る終身年金、いわゆるアニュイティも理論的には注目したいところです。
終身で受け取る年金は、加入者の資産を加入者全員で分け合う、いわゆるトンチン年金のコンセプトが基本にあります。ただ、加入してすぐに亡くなる場合には受け取りが全くないことも想定され、金融庁の指導で加入後最低でも5回以上の受け取りを保証することが義務付けられています。その結果、現実的には「保証期間付終身年金」となっています。
年金を“受け取る”商品性が伝わっていない
こうした年金商品には、メリットもある一方で課題もいくつか内在しています。
まず保険商品に限ったことではありませんが、個人年金といった保険商品でも、その多くが退職後資金を「作ること」に力点が置かれ、「受け取ること」への関心はそれほど高まっていません。また、定額型の商品が主流になったことで、インフレに対する備えが不十分で実質的な購買力の低下も懸念されます。さらに、確定拠出年金の受給と同じように、年金商品の90%が退職後に一時金で受け取る事態となっていて、受け取り開始後の商品性を伝えきれていない点が指摘されます。
実際の販売現場でも年金原資を「作る」方に意識が向かっているように思われます。保険商品の開発者側の声はなかなか販売現場に伝わらず、販売現場が向き合っている消費者の声がなかなか商品開発現場に伝わっていないとも言われており、保険商品の「プロダクト・ガバナンスの課題」といってもいいかもしれません。
保険に払うコストの高さ
保険商品の手数料の高さはよく指摘されていますが、高いかどうかわかるような透明化が進んでいない面もあるように思われます。外貨建て定額の保険料は、一時払いの場合3.5%程度、年払いの場合0.3~0.4%程度、累計で6%ほどの手数料を払うことになっているようです。
海外に比べて日本の保険料率が高いのは、保守的な死亡率の考え方や責任準備金の高さにあるのではないかとの指摘もありました。
確定拠出年金の受取用商品として十分か
確定拠出年金の受取用商品として、確定年金、終身年金が使われていますが、予定利率が1%程度に設定されていることから、終身年金で試算するとこれまでのところ「平均余命を迎えても元が取れない」状況でした。これではなかなか取り崩し期に使える金融商品として認識されにくいと考えます。
資産形成商品としてみられる年金商品
年金の受け取り局面での特徴が十分に消費者に伝わっていないとの意見もありました。個人年金の特徴を伝える各社のホームページをみると、「増える期待」、「資産形成として資金を増やす」、「計画的に資金準備ができる」といった文言が印象に残るようになっており、資産形成のための金融商品としての特徴が前面に出ています。残念ながら、年金と商品名がついていても、受け取ることに視点が向いていないのが実情です。
保険業界があまり新規の商品開発に力を入れてこなかったのではないかとの指摘もありました。横並びの商品提供が長く行われてきたことに加えて、金利の低い時代が長く続いたことから、新しい魅力のある商品が作り出しにくかったことも背景にあります。
保険のスキームは本質的にデキュムレーションに向く
保険という枠を使って、そのなかで自由に運用資産を乗り換えることができる変額年金のスキームは、デキュムレーションに有用だと考えています。その枠の中で、資産形成期の金融商品から資産活用期の金融商品にスイッチングをする限りその枠を売却しないことから、キャピタル・ゲインを認識する必要がなく税制上のメリットを活用できます。
また資産を取り崩す場合には、投資元本分の金額までは、取り崩した資産は元本として扱われ、非課税になりますから、この面でもメリットがあります。
新しいコンセプトの年金商品:運用商品の外側を保険でカバー
年金商品は、受け取れる期間と受け取れる金額という2つの基本コンセプトをもとに、いろいろな種類の退職後の所得を確保するアイデアが作り上げられています。議論のなかで研究会メンバーが興味を持った新商品に関してもまとめてみます。
米国では、終身引き出し保証(GLWB:Guaranteed Lifetime Withdrawal Benefit)と呼ばれる、運用資産とその引き出しという商品性の外側に保険を掛けて、その引き出し機能を保障する商品が登場しています(5月に行われた日本証券アナリスト協会の国際セミナーで研究会メンバーの後藤氏が発表されています)。これに類似した保険でラップされた金融商品も日本では普及する余地が大きいと考えます。
金利2%の時代に向けてそろそろ準備を
年金保険、なかでもアニュイティなどは海外でも注目され、資産活用期の商品として活用されていますが、日本ではまだまだ使われていません。こうした商品を設計するためには、10年債利回りが2%程度になってこないと難しいとの見方があります。ただ、既に1.8%程度にまで上昇していることもあり、そろそろこうした商品への注目度も出てくるかもしれません。今こそ、デキュムレーション商品の議論がいっそう活発になることを期待したいところです。


