私の心情(317)―取り崩しインタビュー、Iさん:お金は生きているうちに使い切りたい

転籍が続いたのち、62歳で退職

66歳のIさんは、80歳になる奥様と都内のマンションで2人暮らしをされています。奥様のご年齢を伺った時にちょっと驚いたのですが、30年ほど前に再婚同士で結婚されたとのこと。それぞれに前のパートナーとの間にお子さんがいらっしゃいますが、今は2人だけの生活です。

Iさんのご自宅の近くの喫茶店で伺ったインタビューは、1時間30分以上にも及びました。Iさんは新卒で岡山市の食品会社に就職しましたが、その後家電販売、信販会社と転職し、さらにその会社が中堅銀行に買収されるなどで転籍を何度か経験しました。その間に、Iさんは不動産法務に関する知識・知見をつけ、それが力になって60歳の定年後も会社に引き留められるほどでした。再雇用1年目で病気となり、入院・手術を受けることになり、さらにコロナ禍も続いて、2年目は在宅での再雇用に切り替わりました。ただ、もう働くのは止めようと思い立ち、62歳で完全退職です。

退職時点で2300万円の現金

転籍が続いたために、その都度退職金を受け取ることになるのですが、勤続年数が短いことからまとまった金額にはなりません。それでもその資金を使って投資信託への投資をしていたようです。

最後の中堅銀行の60歳定年時に1000万円ほどの退職金を受け取ることができ、また積み立ててきた財形貯蓄が1300万円ほどあり、あわせて2300万円ほどのまとまった資金になったことから、少しほっとされたようです。この退職資金は、預金に2000万円残し、残りの300万円は株式投資に振り分けました。もともと1980年代のNTT株の売り出しから投資経験はあり、折々に売り買いをしてきたとのこと。最近は優待券狙いの投資に切り替えてきたけれど、「それほど損をすることはなく」投資を続けています。

イオン株が一時2000万円に

24年前に購入したマンションの近くにイオンモールができたことをきっかけに、イオンの株式にも投資をしていましたが、60歳で受け取った退職金で300万円の追加投資をしたそうです。その後も買い増して、株価のピーク時にはイオン株の資産額は2000万円程度になっていたようです。このイオン株を2024年に売却して現金化、現在、株式は退職当時と同様に300万円ほどの水準に戻しています。優待券を受け取れる最低限のイオン株と配当を考慮してトヨタ株を保有しています。

2つのマンション

現役時代、2つのマンションを保有していました。ひとつは、2800万円で購入した姫路のマンションです。バブル経済崩壊後とはいえまだ値段が高かった90年代の後半に購入しています。しかも買ってすぐに転勤が決まり、一度も住むことなく賃貸に出すことになります。

もうひとつのマンションは、東京に転勤した後、24年前に購入した今住んでいる自宅です。東京に転勤になって、もう岡山に帰ることはないと気持ちを定めて、住宅ローンを組んで5000万円の物件を購入しました。

定年を迎えて2つのマンションの整理をします。姫路のマンションを売却し、その資金で現在住んでいるマンションの住宅ローンを完済しました。姫路のマンションの売却額は1000万円と購入額の3分の1ほどになりましたが、築年数を考えれば当然でしょう。ただ幸いにも、このマンションは住宅ローンの返済をしながらも利益が残る程度に賃料を設定でき、しかも長く借り手がいましたから、トータルではプラスになっています。

東京のマンションの価格は、購入後にリーマンショックなどもあり、低迷していましたが、その後持ち直しているようです。最近、不動産業者に聞いたところ、価格は戻ってきていて「慌てて売らなければ8000万円以上になる」と言われたようです。これももう一つの資産です。

趣味は車

退職時点の現金と有価証券の売却益で趣味の車、なかでも最近はレクサスに注ぎ込んでいます。62歳と63歳の2回で1500万円ほどを購入費用に費やしています。現在、気にかかっているのは26年発売のレクサスES300とのこと。その良さを説明されてもわからない車音痴の私にも、車庫に入りきらない大きさの車は意味がないことはわかります。Iさんは「日本向けに少し車長を短くしてくれないだろうか」と念じていましたが、そんな簡単ではないでしょう。

健康的な生活を続けている

奥様は週に3~4日仲間とカラオケで楽しみ、Iさんは、ほぼ毎日、自転車でサイクリングを楽しんでいます。Iさん曰く、サイクリングではなく「ポタリング」とのこと。ポタリングとは目的地を定めずに気軽に走るサイクリングの一種で、Iさんの場合には1日2~3時間走り回っています。ほとんど毎日だそうです。その結果、3か月で体重を10kgほど減量でき、ポタリングを始めるきっかけとなった健康診断の結果も一気に改善したようです。

月に1回1~2日程度、奥様との旅行も欠かしません。また年に2回くらいは10日間ほどの長期旅行も楽しんでいます。どちらも車で出かけるそうで、今年の長期旅行は、松阪、那智勝浦、高野山、倉敷、加古川、福井、沼津を10日間ほど車で走り回ったとのこと。

個人年金が今の生活の支えに

普段の生活にはあまりお金をかけていないとのことで、現在、夫婦2人の生活費は月額で15万円程度、年間で180万円程度に抑えています。

62歳までは働いていたので勤労所得がありましたが、その後は預金を取り崩して、一昨年、65歳になったときからは個人年金の受け取りがあり、これが唯一の収入となっています。この個人年金は、現役時代の30年間、年間30万円ほどを掛け続けてきたもので、65歳から10年間、年間220万円を受け取れます。これがIさんにとっての資産の取り崩しとなります。

奥様の年金が月額8万円ほどありますが、奥様の小遣いに半分、残りはご自身の貯蓄に回しているとのこと。

公的年金受給開始をいつにするかが課題

次の問題は、ご自身の公的年金の受給開始時期をいつにするかです。すでに受給繰り下げを決めていますが、70歳から受け取るのか、個人年金の受け取りが無くなる75歳までか。よく言われる、「元を取り戻すには11年強必要」という言葉をご存じで、75歳から受け取り始めると、「いくら年額が8割以上増えたとしても、86歳以上まで生きなければ元が取れないと・・・」といった計算をされています。

ただ、70歳まで繰り下げするだけで月額28万円前後になります。もちろん75歳まで繰り下げれば35万円程度になるはずですが、「そこまで待つこともない」とも感じていらっしゃるようです。

健康関係のコスト増加を考慮して年金受給額の上乗せがあった方がいいという考えもありますが、既に60歳時点で保険料を払い終えている医療保険、がん保険、介護保険などがあり、これらで対応できるのではないか。やはり「受給開始は70歳かな」。

子どもたちとの関係に一抹の不安

金融資産は1000万円程度あり、ローンを完済したマンションもあります。また奥様も自身の資産として預金を確保されているようです。2人だけの生活ですから、普段の支出はそれほど心配されていませんが、今後、介護などの不安や出費の懸念があります。さらにもうひとつ気になっているのが、それぞれの前妻、前夫との間にできた子どもたちのことです。

Iさんは前妻との間に2人のお子さん、奥様は前夫との間に3人のお子さんがいらっしゃいます。伺った詳細は小説のような内容で、ここで記すわけにはいきませんが、奥様のお子さんも含めて5人の子どもさんとは既にほとんど交流がない状態が長く続いていて、財産を残す必要はないと割り切っているようです。

だからこそ、「お金は生きているうちに使い切りたい」との思いは強いようです。

しかし、「住所も、口座もわからなくなっている子どもたちに財産を渡すことはできない」と話されるIさんには、どこか「調べて渡せるようにすることはできないものか」との思いも残っているように感じました。

インタビューを終えて

伺っていると、勤労収入、個人年金、公的年金を順々に生活資金として使っていく退職後生活を計画されています。最近よく言われるWPP(Work Longer、Private Pension、Public Pensionの順に資産を用意する)を、知らずに体現しているようなIさんでした。ただこれもある程度の金融資産や不動産があってのことかもしれません。

特に今後、健康問題や介護対応を考えると、まとまった資金が必要になります。「お金は生きているうちに使い切りたい」と考えていても、最後半に控えるまとまった資金需要はそれを躊躇させます。その結果、お金が残ってしまったらどうしようか。お子様に残すということさえ、簡単ではない事情もある。本当にいろいろ考えさせられるインタビューとなりました。