私の心情(201)―お金との向き合い方64-英国金融アドバイス業界の動向

 

英国金融アドバイス業、1兆円を突破

英国金融当局が、8月上旬に発表した2022年の金融アドバイザーに関する統計によると、個人向けの投資アドバイスビジネスを行う企業数は5116社、その総収入は55億ポンド強、1ポンド=185円で計算すると1兆円強に達し、過去最高となっています。

手数料撤廃の大改革があった13年を基準にすると、アドバイス・フィーの収入構成は13年の36.7%から22年には85.6%へと変わらざるを得ませんでしたが、総収入は2倍強に拡大しています。手数料撤廃の制度はそれを提唱した金融当局の報告書Retail Distribution Reviewの頭文字をとってRDRと呼ばれていますが、これによってアドバイス業界は相当大きなダメージを受けるといわれました。しかし、販売手数料(商品販売に紐づく収益)からアドバイスフィー(サービスに紐づく収益)へと収益構造を変えながら、高い成長を遂げたことがわかります。

アドバイザーは増えていない

ただ、アドバイザーの数はそれほど増えていません。統計は途中まで業界団体のPIMFAの数値になりますが、2013年のアドバイザー2.2万人から2022年には2.8万人へと27%増にとどまっています。特にここ4年ほどは2.7₋2.8万人の横ばいに推移していますから、収益の増加がアドバイザーの増加によるものではないことが窺えます。

年間40₋50万人の新規顧客

アドバイザーがそれほど増えないなかで収益が拡大しているのは、継続的なサービスを提供する顧客数が増加していることにあります。

投資を始める際の初期アドバイスの件数は(その他の個別アドバイスも含む)、ほとんど横ばいで推移しています。2021年はコロナの影響があって167万件強と突出していますが、2016年から2022年は毎年100万件前後で推移しました。金融当局のデータによると、こうした初期アドバイスのアドバイス・フィー水準は平均値で1.0₋3.0%と高いのですが、これを引き上げるためにはアドバイザーの増加が不可欠ですからコスト増との見合いになります。

しかし毎年一定の新規顧客が見込まれ、それが継続的なアドバイスを受ける顧客の増加につながれば、これは大きな収益源となります。ちなみに、2016年以降の新規顧客数は平均46.9万人でほぼ横ばいです。7年間の当初アドバイスの平均件数は110万件で、新規顧客数が同46.9万人ですから、新規顧客1名を獲得するために平均2.35回のアドバイスを行っている計算になります。

継続的なアドバイスを提供する顧客は過去6年で120万人増加

もちろん、ここ5年ほどは年末の顧客数の5%前後(2022年で18.8万人)が契約を解除していますが、それでも毎年新たに顧客となる人が平均して46.9万人いることで、継続サービスを提供する顧客数は2016年末の221.0万人から22年末で346.8万人へと、6年間で120万人以上増えています。

ちなみに継続アドバイスのフィーは残高の0.5₋0.9%と初期アドバイスの半分以下ですが、継続アドバイスを受ける顧客数が大幅に増えていることに加え、継続顧客当たりのアドバイス収入も増加しています。

Pension Wiseが潜在的なアドバイスサービス需要の源泉か

ところで年間40₋50万人の新規顧客が増加する背景はどこにあるのでしょうか。まだ十分な分析はできていませんが、仮説として、2015年にスタートしたPension FreedomとPension Wiseの施策が背景にあると考えています。

英国ではDC加入者がその資産を引き出す際に非常に複雑な計算で引出額などを決めることになっていましたが、Pension Freedom制度を導入して極めてシンプルな方法に変わりました。55歳になればDC資産額からの引き出しは可能になり、従来通りその25%相当は非課税ですが、残りの分に関しては引き出した年の課税所得に合算するだけのルールとなりました。ただ、これによって大切な退職後の資金を一度の遊興費に費消しかねないとの指摘から、政府はDCを引き出した加入者に投資ガイダンス(Pension Guidance)を無償で行うことになっています。

企業年金の義務付けで1000万人以上がDCに加入

加えて2012年から2018年までの間に、英国ではすべての企業が企業年金を導入することが義務づけられ、従業員はそれに自動加入する(脱退権は認められている)ことになりました。これによってDCを主力にして1000万人以上の加入者増が実現しました。DCの加入者増も今後、退職期を迎えるとPension Wiseの受益者になってきますから、これも潜在的に大きな力になってくるはずです。

年間10‐13万人に対して無償面談を実施

ちなみに、Pension Wiseなどの面談を担当する政府の外郭団体Money and Pensions Serviceの統計データによると、この5年間で毎年70-90万人が何らかのかたちでPension Guidanceのサービスを受けています。また相談件数はコロナ禍で面談による相談が一気になくなりましたが、電話での相談にシフトさせて、継続して年間10₋13万件の相談が実施されています。なお、コロナ禍の影響が薄まってきた2022年7-9月期から面談での相談が徐々に増え始めています。

こうした潜在的な退職世代が無償の投資ガイダンスでは物足りないとして、アドバイザーが提供するサービスに向かっているのではないかと考えます。