私の心情(116)―資産活用アドバイス45-60代6000人の資産延命策

年間生活費は平均370万円でばらつきが小さい

前回の「私の心情115」では、60代6000人のアンケート結果から、保有資産の分布が大きかったことを紹介しました(平均値2695.5万円、500万円未満層が36.1%)。

その一方で、60代の年間生活費はどれくらいかを聞いてみると、平均値は368.7万円で、201₋400万円を挙げた人が全体の45.0%、401-600万円を挙げた人が22.2%となり、この2つの合計で全体の3分の2を占めました。年間生活費は比較的ばらつきが小さいことがわかります。

7割が保有資産で老後は何とかなると楽観評価

そこで気になるのが、「その資産で寿命までの生活をカバーできるだろうか」という疑問。これは、「資産活用」においては非常に大きなテーマです。

普通に考えれば、ばらつきの大きい保有資産でばらつきの少ない生活費をカバーするわけですから、「その資産で寿命をカバーできる」と考える人もばらつきが大きくなるはずです。

しかし6000人の60代に聞いた結果は、かなり違っていました。図表1の通り、保有資産で自分の寿命は「十分」カバーできると答えた人は17.9%、「何とかギリギリ足りると思う」と答えた人は51.9%になりました。なんと7割が「保有する資産で自身の人生を最後までカバーできそうだ」と考えているのです。

資産水準と生活費のばらつきの大きさと、資産水準への安心度のばらつきの少なさには、大きな楽観が隠れているのではないかと懸念が残ります。

保有資産2000万円以上で安心感が増す!?

そこでもう少し保有資産とその評価について分析をしてみます。一般的に考えれば、保有資産が多いほど安心感は増すはずです。それは保有資産水準別にみた「自分の寿命をカバーできるか」という問いへの回答をみた図表2でもわかります。保有資産額が増えるにつれて、「十分できる」と回答した人は右肩上がりになり、逆に「まったく足りない」としている人が右肩下がりになります。また、保有資産額が2000万円を超えたところから「十分できる」が「まったく足りない」を上回るようになっていますから、この水準辺りが、分岐点になっているように思われます。

ただこのグラフからは別な側面も見えてきます。保有資産額が500万円未満でも4割の人が、十分であるかギリギリであるかの水準は別として「足りる」と考えていることです。特に「何とかギリギリで足りる」と考えている人が37%にまで達しているということです。これが前述の全体で「足りる」と考えている人が7割に達している背景のひとつといえるのではないでしょうか。

 資産寿命を延ばすのは「生活費の切り詰め」

保有資産が少なくても何とかギリギリで自分の寿命をカバーできると考えているとすれば、そこには少ない資産でもなんとかなるとする「資産寿命の延命策」があるはずです。

そこで60代にとっての「資産寿命を延ばすための施策」を聞いてみると、第1位が「生活費を切り詰める」(31.8%)、次が「長く働く」(28.9%)、その次が「資産運用」(18.2%)でした。年齢別にみると、60代後半では「長く働く」の比率が下がり(23.1%)、代わって「資産運用」の比率が上がる(20.7%)傾向があります。また当然ですが、現在、無職の人は「長く働く」ことが難しく、特に以前、自由業だった人では「長く働く」の比率は7.3%に急落します。

一方、「生活費を切り詰める」と回答した比率が相対的に高くなっているのは、無職で以前、自営業だった人(41.9%)、専業主婦/主夫(38.3%)といった層が挙げられます。年齢や居住都市、家族構成でも差異はありますが、それほど大きなものではありませんでした。

また、先ほどの資産1-500万円層(1253人)で「自分の寿命を何とかカバーできる」と回答した465人(37%)の資産の延命策を調べてみると、「生活費を切り詰める」の比率が43.7%とかなり高くなっていることも分かりました。

資産寿命延命策のトップである「生活費を切り詰める」は、実際には、他の施策が無い時の“消去法的”色合いが濃いように思われます。どこか余裕の無さが気になるところです。

食費の切り詰めはそれほど簡単ではなさそう

最後の拠り所のように考えている「生活費を切り詰める」策も、アンケートデータからはそれほど簡単ではないように思われます。60代にとって最も大きな支出は何かを聞くと、49.5%が「食費」を挙げています。しかもその次の「家賃・住居費」を挙げた人の比率は16.8%で、これを大きく上回っていますから、本当に食費の負担は大きいもののようです。

そのため、「生活費削減策」としては「食費を切り詰めること」が最も貢献する策として挙げられています(34.0%)。とはいえ、「生活費削減に貢献する策はない」と断じる人も22.8%いますので、食費が最大の支出とは言え、それだけで生活費の削減につながるかどうかは難しいところです。ちなみに、「食費」が最大の支出と回答した3212人のうち、生活費削減策として「食費の切り詰め」を挙げた人は1314人、40.9%に留まり、また716人、22.3%は「生活費削減に貢献する策はない」としています。「生活費削減」を対策に挙げながら、なかなか有効な手段が見つからないのが実情ではないでしょうか。