私の心情(212)―お金との向き合い方72-投資の主体が40-50代に移ってきたか?

家計調査における有価証券売買動向

2024年から新NISAがスタートします。その直前で、有価証券投資に年代別の変化が出ているのかを確かめたいと思い、家計調査の2人以上の勤労世帯のデータを使ってそのトレンドをみてみました。家計調査は消費の実態を知るために使うことはよくあるのですが、同様に有価証券の売却(実収入以外の受取の一部)と購入(実支出以外の支払の一部)のデータも月次で追いかけることができます。直近では2023年9月までのデータが入手できますから、最近の動向を窺い知ることには力になります。ただ、月次の平均値なので、購入・売却に偏りが出やすい点が扱いにくいものです。ここでは12ヵ月の移動平均をとってそのトレンドを見ることにします。

以前もコラムでデータを追跡

フィンウェル研究所のコラムでは、過去にも家計調査を使って、年代別の有価証券投資のデータを分析したことがありました。最初のコラムは、2021年6月15日付けで「私の心情(80)―若年層における投資の広がりと懸念」、その次が2021年10月2日付けで「私の心情(97)―加速する若年層の投資とその売却」でした。今回はそのアップデートでもあります。

21年には若年層の投資拡大を映す

最初のグラフを見ていただくと、若年層の投資拡大を再確認いただけます。全世帯の購入額平均値(少し太めの青の実線)は2015年1月以降(2015年12月に1₋12月の12ヵ月移動平均を記載)、ほぼ右肩上がりに推移しています。NISAの導入以降、家計調査のデータでも家計の投資への前向きな姿勢が窺い知れる数値です。

この実線と、34歳以下の購入額平均を示す緑の実線、35‐39歳の購入額平均を示す赤の実線を比べてみると、10年ほどの間の変化がわかります。

この2つの実線は、当初、全世代の平均値を下回る水準でしたが、2018年あたりから同じ水準に高まり、2021年くらいからはそれを上回る水準に達していることがわかります。有価証券の購入の主役が徐々に若年層に移ってきたことが窺われます。つみたてNISAのスタートに伴って、2018年あたりから「積立投資が若年層に広がった」ことで、30代以下の有価証券購入が盛り上がっていたのだと考えます。

ただ、破線で示している売却額も同時に増加していたことが気になります。前述の2つのコラムでも指摘したのですが、非課税口座でありながら長期投資の姿勢がみえないのは、たとえ20年という長い期間であっても、非課税期間がある制度設計そのものが、売却を助長するものだったのではないかと考えます。

その後、2022年の半ばごろから少し様相に変化が出てきました。30代以下の購入額平均値が徐々に低下し、直近では全世代平均値を下回る水準まで低下しています。これは30代以下の層に代わって、購入の中核になる別の層が出てきたことを示唆しています。

買い手の中核が中堅層に徐々に変化か

2つ目、3つ目のグラフでは、40代以上の層に関しても、同様な12ヵ月移動平均による推移を見ています。

2022年の秋から、40₋44歳、50-54歳の2つの層で平均購入額が上昇し、45₋49歳も水準を少し切り上げています。月次データで、2022年12月に大幅な平均購入額の上昇がみられ、それが12ヵ月移動平均値を高止まりさせていることから、まだ確たることを断言できる状況にはありませんが、月次のデータをみても、買い手の主役が徐々に40代、50代にシフトしているのではないかと窺わせます。

新NISAの発表が影響か?

12月に大幅な購入金額増となるのは、ボーナス時期で、非課税期間年度末であることが影響していると思います。ただ、昨年の12月は、ちょうど資産所得倍増プランが発表され、2024年の新NISAの議論が登場してきた時期でもありました。制度がわかりにくくて使いにくいといわれた「2階建てのNISA」が見送りになり、新NISAでは現行のNISAが一体化され、制度・非課税期間が恒久化され、非課税投資額や非課税限度額も引き上げられると報じられるようになった時期です。退職時期が近付きつつある中堅世代が、新NISAに最も反応したのかもしれません。

また60代以降の家計では、他の世代と比べて、データの波が大きい傾向にあります。まとまった購入・売却が行われることが多いようで12ヵ月移動平均をとっても、その動きは歪な形状となっています。ただそれでも、60₋64歳は2020年から有価証券購入の水準が高まり、また65₋69歳もここにきて水準が切り上がっていることが窺えます。